自己免疫性膵炎の治療について説明します

<ステロイド治療>

@寛解導入

自覚症状や膵外病変を合併する患者さんには
プレドニゾロン0.5~0.6mg/kg/日の初期使用量が
推奨されています

閉塞性黄疸や糖尿病を合併する場合には
胆管上皮生検や胆汁細胞診を兼ねて胆道ドレナージによる減黄や
血糖コントロールを行った後にステロイド治療を行います

画像上の改善は
ステロイド投与開始後4 日~2週間後には認められ
効果判定には 血液検査と合わせCTによる画像診断を行います

寛解率は98%程度で
再燃は30~60%です

初回治療でのステロイド無効例は 診断を見直すべきです

@維持療法

自然寛解例やステロイド離脱できる症例もありますが
寛解導入後のステロイド中止後1年以内に
30~50%が再燃します

日本では
経口プレドニゾロン5~7.5mg/日の維持療法により
再燃が有意に予防できたと報告されています

治療開始3年目以後の再燃例は少なく
その時点でのステロイド総投与量は10g超となり
免疫抑制 骨粗鬆症などのステロイドの副作用が増強するため
画像診断 血液検査で完全な改善が得られた症例では
3年間の維持療法の継続が目安とされます

@再燃

再燃の定義は
臨床症状(黄疸 腹痛 糖尿病の悪化)を呈し
かつ血清IgG4上昇をともなう場合
もしくは 新規の膵外病変を認める場合です

一部の症例では 再燃を繰り返し
慢性化膵石を形成して 非可逆的な膵不全に進行するので
再燃予防は重要です

ステロイド開始後の再燃率は
1年で56% 3年で92%で
再燃の90%以上が3年以内に起こります

ステロイド開始後に血清IgG4値が正常化する場合は
比較的再燃率が低いとされます

再燃のリスク因子は
黄疸 びまん性膵腫大 肝門型の硬化性胆管炎 十二指腸乳頭部の腫大
膵外病変の合併 血清IgG4高値
などです

びまん性膵腫大例は 
限局性膵腫大例よりも再燃しやすい

硬化性胆管炎 硬化性唾液腺炎・涙腺炎(Mikulicz病)
後腹膜線維症をともなう患者では 
明らかに再燃率が高い

治療前にカットオフ値の2~4倍以上という
著しい高IgG4血症や
寛解導入後に持続的な高IgG4血症や再上昇を認める場合は
明らかに再燃が多く
治療開始数カ月後における血中IgG4値の低下率が
再燃予測に有用との報告もあります

再燃例においても
ステロイドの再投与が90%以上で有効で
20~50%増量で寛解が得られたという報告が多いです

再燃例でのステロイド漸減は
初回治療に比べ緩徐にすることが肝要とされます

再燃を繰り返す場合には
ステロイド 免疫抑制薬 リツキシマブの維持療法が試みられていますが
投与期間に関する国際コンセンサスは得られていません

@不応例は再度鑑別診断を行う

膵がん 胆管がんなどの腫瘍性病変との鑑別が極めて重要で
2週間以内に膵腫大所見の改善を認めない場合など
ステロイド反応性が悪い例では
悪性腫瘍を疑い再検査を行います

また
ステロイド投与による安易な治療的鑑別診断は続けるべきでなく
ステロイドの効果がみられない時は
早期に減量・中止し 再度鑑別診断を行う必要があります


<その他の治療>

@胆道ドレナージ

60%は胆道閉塞を呈するため
胆道ドレナージにより減黄を行うことが原則です

軽度の黄疸例(5mg/dL以下)では
ステロイド投与のみで減黄可能な可能性があります

@糖尿病の治療

AIPに合併する糖尿病は
*糖尿病が先行するタイプ
*同時発症するタイプ
*ステロイド治療後におこるタイプ
があり

2002 年の全国調査では
AIPの67%に糖尿病が合併し
糖尿病先行が33%
同時発症が52%
ステロイド開始後の糖尿病発症が16%
と報告されています

AIPに合併する糖尿病は
ステロイド治療により25~40%の症例で改善するとされており
AIPの炎症・線維化が
膵ランゲルハンス島に非可逆的なダメージを与える前であれば
ステロイドにより膵β 細胞機能が改善する可能性があります

一方で
AIP が耐糖能異常を惹起し
治療目的で使用されるステロイドも高血糖を誘発するので
通常の糖尿病と比較し
血糖コントロールが困難となる可能性も指摘されており
実際にステロイド治療で悪化する例も
18%ほどあると報告されています

またステロイド治療により
50%程度に膵外分泌機能の改善を認めます
高橋医院