ブタのレバ刺し なんでダメ?
6月12日から 豚の生レバーが食べられなくなりました レバ刺しには あまり興味がないので(むしろちょっと苦手) 個人的には6・12ショックはありませんでしたが テレビニュースなどを見ると 11日夜に駆け込みで食べに行かれて 「ああ これで生食文化がまた一つ消えてしまう」 と嘆いておられたファンが多かったようですね どうしてこうした規制がかかったかというと 豚のレバ刺しを食べてE型肝炎に感染した患者さん の報告が増えてきたからです 「E型肝炎ってなんだ? 聞いたことないぞ」 という方がほとんどでしょうから ちょっと解説します E型肝炎は E型肝炎ウイルス(HEV)の感染により 急性肝炎になる病気です HEVは 中央アジア 東南アジア アフリカなどに多く存在し HEVに汚染された飲料水を介して 大規模な感染が時折起こっています 飲料水などを介して 口からHEVが体内に入り(経口感染と言います) 血液を介して肝臓に達すると 肝細胞に侵入して肝細胞を壊します 感染してから平均6週間の潜伏期を経て 倦怠感 食欲不振 発熱 悪心嘔吐 などの症状が出現し ひどい場合は黄疸(白目が黄色くなり尿が濃褐色になる) も見られます 黄疸になるのは肝細胞が大量に破壊されるからです 一般的には1~2週間ほどベット上で安静にして 点滴を受けているだけで自然に治りますが 妊婦 高齢者 臓器移植を受けている方などでは 重症化し死に至ることもあります B型肝炎やC型肝炎のように 慢性化することはなく 一度感染すると HEVに対する抗体ができるので 風疹などと同じように 二度と感染することはありません HEVに汚染された食物や水を 経口摂取することで感染しますが B型肝炎のように 性交渉で感染することはなく インフルエンザのように くしゃみなどの飛沫で感染することもありません 日本でも ときどきE型肝炎の患者さんはおられましたが その多くはアジアを旅行され帰国された方でした しかし2003年に兵庫県で 野生のシカの生肉(レバーではない)を食べて HEV感染した報告がありました このとき 患者さんが食べた生肉と患者さんの血液中から 同じ遺伝子型のHEVが同定されたことから 世界で初めて 食肉を介してHEVがヒトに感染することが 証明されたのです 2004年には 北海道でブタの生レバーを食べたあとに集団発生があり このときは1人の患者さんが 劇症肝炎で亡くなっています 2005年には福岡で 野生のイノシシの生肉を食べて E型肝炎になられた患者さんが報告され こうして ブタ シカ イノシシなどの 生の食肉やレバーを食べると E型肝炎になる危険性が明らかにされました 現在では日本でE型肝炎患者さんの約1/3は 生食肉を食べて感染したと推定されています ところで 日本のE型肝炎患者数は 2011年までは年間40~70人程度でしたが 2012年から連続して 120人を超えるようになりました 急増した理由として考えられているのが 2012年の牛レバ刺し禁止です 牛レバ刺しの代わりに ブタレバ刺しがお店で供されるようになって E型肝炎が急増したと推測され それにより今回 ブタレバ刺し禁止令が出されることになった次第です さて 動物に感染しているウイルスや細菌がヒトに感染して ヒトが病気になることは珍しくありません この種類の感染症は人獣共通感染症と呼ばれ エボラ出血熱 狂牛病(牛海綿状脳症:BSE) 新型鳥インフルエンザ 前回紹介したSARS MERSなどが有名です なかでも今回のE型感染のように 動物や魚の生肉や加熱不十分な肉を食べることで 感染してしまう病気が多くあります 有名どころでは 動物の腸管や肝臓に存在し ヒトが生で食べると食中毒や感染性腸炎を起こす 腸管出血性大腸菌(O157など)サルモネラ カンピロバクター 魚介類 特に淡水魚の生食で感染する アニサキス 横川吸虫などの寄生虫 などなど 上述した2012年に牛のレバ刺しが禁止された理由は 生レバーを食べることによる O157感染の危険性に因るものでした 今回は豚が問題になりましたが イノシシ シカ ウサギなどのジビエ料理の生肉にも 充分に注意しなければなりません 生肉ファンには残念なことでしょうが 致し方ないかなという気がします ちなみに このブログを書くために読んだ文献によると 豚は集団飼育されているので 1~3ヶ月齢の子豚の時期に集中してHEV感染が起こり 出荷される6ヶ月齢の豚の多くは HEVに対する抗体が出来ていて 血中HEVは消失しているとの報告があります しかし6ヶ月齢の豚の肝臓に 本当にHEVがいないかどうかは 明らかにされていません そのあたりをもう少しクリアにできると ブタレバ刺しがお店に復活できる可能性もあるかな? 今日は東京は梅雨の晴れ間のようですが 暑くなりそうですね それでも 意外に風邪の患者さんが少なくありません 職場などでクーラーの風に直接あたらないように ご注意ください
高橋医院