バセドウ病と妊娠・出産
バセドウ病だと 妊娠してもうまくいかないから 子供はあきらめてください 昔はそんなことが 本当に言われていました 甲状腺の病気は出産適齢期の女性に多いので 病気と妊娠・出産との関連を心配されている方も 少なくないと思いますが 治療により病気がきちんとコントロールされていれば 普通の妊娠や出産と同じ注意で大丈夫ですし 妊娠中の甲状腺疾患治療薬の服用が 胎児に悪影響を及ぼすことはありませんし 授乳も全く問題ありません なんら心配はありませんから どうぞ安心してください 今回は 妊娠・出産とバセドウ病の関連について説明します <甲状腺の病気でなくても 妊娠中に機能亢進症になることがある> 妊婦の300人に1人くらいは 甲状腺の病気に罹っていなくても 妊娠8〜12週頃に 一時的に甲状腺機能が亢進することがあります これは 胎盤がつくるhCGというホルモンによって 甲状腺が刺激されるためで つわりの強い人に多くみられるとされています 上のグラフに示されているように hCGの濃度は妊娠中期になると低くなるため 一時的に機能異常を示すだけで 時期がくれば治まりますから心配ありません <バセドウ病が妊娠・胎児に与える影響> @妊娠への影響 甲状腺機能の亢進が長い間続いていると 生理の頻度が少なくなったり 停止してしまうことがありますが バセドウ病だから妊娠しにくいということはありません しかし 治療をしておらず甲状腺ホルモンが多い状態が持続すると 流産・早産・妊娠中毒症の危険性が増すので 妊娠を希望される方や妊娠された方は きちんと治療することが大切です 妊娠中の治療による 胎児への影響も心配する必要はありません @胎児への影響 母体血液中のTRAbが高値の場合 胎盤を通過して胎児の甲状腺も刺激して 胎児・新生児に甲状腺機能亢進症がみられることがありますが 母親が服用している薬は 胎盤を通じて胎児にも効くので大丈夫です つまり 抗甲状腺剤の服用は 妊娠中の母子どちらにとっても必要と言えます TRAbは 出生後1ヶ月程度で赤ちゃんの体内から消えるので 赤ちゃんの甲状腺機能亢進は やがて軽快しますので大丈夫です また 母体の甲状腺機能亢進症により 胎児奇形の頻度が増す証拠はありません <妊娠が母親のバセドウ病に与える影響> @妊娠初期(0~3M) 一時的に甲状腺ホルモンが増加することがあり 抗甲状腺薬の変更が必要なことがあります これは上述した胎盤ホルモンhCGによる 甲状腺刺激作用によるものです 一方 妊娠中に増加するエストロゲンが 血中で甲状腺ホルモン結合性サイロキシン結合グロブリン(TBG)を増加させ TBGはバセドウで増加しているFT4を結合するので 一過性にバセドウが良くなることもあります @妊娠中期(4~5M)・後期(6~10M) 妊娠週数が進むと バセドウ病は次第に落ちついていき 抗甲状腺薬を減量・中止しなくてはならなくなることもあります @出産後の悪化 バセドウ病の患者さんは 出産後に悪化することが度々あります これは妊娠中に軽くなった反動ともいえる現象で 出産後5~8か月たってから 甲状腺機能が亢進してきます しかし 産後にいったん悪くなった人でも 薬を調節することで落ち着きますし 少量のメルカゾールを内服しながら授乳することも可能です <妊娠中 授乳中のバセドウ病治療薬> @妊娠中の治療 妊娠中も治療は続けなければなりません @授乳中の治療 母乳への移行は メルカゾールよりプロパジールの方が少なく プロパジールの常用量では 赤ちゃんの甲状腺機能には影響しません 抗甲状腺剤でうまく治療ができていないバセドウ病の患者さんが 妊娠を望まれる場合は 妊娠する前に 放射線ヨード療法や手術で治療しておく方法もあります このように たとえバセドウ病で治療を受けていても 普通の妊婦さんと同様に妊娠・出産することが可能です 但し 妊娠中 出産後には 充分な経過観察が必要ですから 産科の主治医だけでなく 内分泌の専門医にもご相談ください
高橋医院