ピロリ菌が 
ヒトの胃のなかに持続的に住みつづけることができる
特異な細菌であることを説明しましたが

では ピロリ菌が持続感染していると
胃はどうなってしまうのでしょう?

<ピロリ菌により 萎縮性胃炎 胃がんが発症する>

ピロリ菌が感染した胃では 
ほぼ100%の確率で 
ピロリ感染胃炎が生じます

この段階では自覚症状もなく 
さほど大きな問題ではありませんが

やがて
萎縮性胃炎胃・十二指腸潰瘍を引き起こし

その一部が胃がんに進行する可能性が
大きいことが問題です

ピロリ菌が感染した胃における萎縮性胃炎から胃がんへの進行

@どうして胃炎や胃がんに進行するか?

ピロリ菌が産生するアンモニアは 
胃の粘膜を直接傷つける作用がありますし

アンモニア以外にも 
胃粘膜に有害な活性酸素毒素も作りだし

それらが胃粘膜に
慢性的な炎症反応を起こさせるので
がんが発生してくる母地となるリスクが大きいのです

ピロリ菌による炎症 がんの発生の機序

またCagA VacAといった
ピロリ菌が産生 分泌するタンパク質が

胃の上皮細胞を破壊したり 
細胞の異常な増殖を促進することが
がんの発生に関与していると考えられています

ピロリ菌で誘導される炎症
ピロリ菌で誘導される発がん

@萎縮性胃炎とピロリ菌の関係

萎縮性胃炎と
ピロリ菌の関連については

*ピロリ感染者の80%以上が 
 萎縮性胃炎を起こしている

*萎縮性胃炎の大半が 
 ピロリ菌感染により生じる

*ピロリ菌の除菌治療により 
 萎縮性胃炎の約50%が改善する

ことが明らかにされています

<ピロリ菌感染がなければ 潰瘍にはならない>

胃・十二指腸潰瘍と
ピロリ菌の関連については

*胃・十二指腸潰瘍の約90%は
 ピロリ菌に感染している

*ピロリ陽性だと
 潰瘍の治療後再発率は60%以上

*除菌治療により
 再発率は10%程度に著しく低下する

ことが明らかになりました

さまざまな消化管疾患におけるピロリ菌陽性率
ピロリ菌陽性者の胃潰瘍 十二指腸潰瘍再発率

これまで胃・十二指腸潰瘍は
ストレス 喫煙 消炎鎮痛剤服用と
深い因果関係があると考えられてきました

しかし上に記したように
胃・十二指腸潰瘍の患者さんの
90%はピロリ菌に感染しており

ピロリ菌非感染者の患者さんの80%は
消炎鎮痛剤を服用していることが示され

ピロリ菌非感染者や消炎鎮痛剤を服用していない人に
胃潰瘍が起こることは稀で 1%もおらず

ピロリ菌がいなければ
ストレスがあっても潰瘍にはならないことが
示されたのです

これは
従来の潰瘍発症に関する常識を覆すものでした


<胃がんは ピロリ菌の感染症である>

胃がんと
ピロリ菌の関連については

*日本人の胃がんの95%以上は 
 ピロリ菌感染によるものである

*ピロリ菌感染者は非感染者より 
 20〜30倍も胃がんになる確率が⾼い

*ピロリ菌感染者の約3%は
 10年後に胃がんが発生する

ことが 明らかになっています

ピロリ菌感染の有無と胃がん発がんの関連
ピロリ菌感染者の胃がん発癌率"

日本では以前より
胃がんで亡くなる方は毎年約5万人と
非常に多いのですが

このように
胃がんとピロリ菌感染の深い関連が
明らかになり

「胃がんはピロリ菌の感染症である」

という概念が示されました

したがって 
胃がんを減らすには 
ピロリ感染胃炎 萎縮性胃炎 潰瘍の段階で
ピロリ菌を除菌すれば良い
という方針が立てられました

こうした背景により 
2013年2月から
胃炎に対するピロリ菌除菌治療が 
健康保険で行えるようになりました

除菌治療に関しては 次回詳しく説明します


<ピロリ菌は胃と関係ない病気も発症させる>

さて 興味深いことに 
ピロリ菌は
胃炎や潰瘍以外の胃の病気や
胃と関係ない病気にも関連することが
明らかにされています

ピロリ菌の感染が発症に関与するさまざまな病気

たとえば 
胃MALTリンパ腫という
悪性度の低いリンパ腫がありますが

*この病気は
 ピロリ菌による慢性胃炎が母地となり発生する

*90%はピロリ菌が陽性

*除菌治療で60~80%が改善し 予後は良好

なことが報告されています

また 特発性血小板減少性紫斑病という
血小板という血液を固まらせる働きを持つ細胞が
減少する病気がありますが

*特発性血小板減少性紫斑病の
 60%でピロリ菌が陽性

*除菌治療で40~60%が改善し 予後は良好

であることが示され

現在では
血液の病気である特発性血小板減少性紫斑病の
第一選択の治療は
ピロリ菌の除菌治療なのです

さらに

動脈硬化

*蕁麻疹 

*糖尿病

*シェーグレン症候群

などでも
その病態形成とピロリ菌感染との関連が疑われています

ピロリ菌とヒトの病気との関連は
なかなか奥が深いようです





高橋医院