骨格筋は ヒトの体で
最も盛んにエネルギー代謝を行っている器官です

<筋肉の健康への関与>

骨格筋での基礎代謝の熱消費量は
全身のそれの約30~40%を占めると
言われています

全身の基礎代謝量のなかで筋肉の基礎代謝量が占める割合を示した円グラフ

ですから 筋肉量が低下すると
エネルギーが消費されず
脂肪になって溜まってしまう

サルコぺニア肥満で説明した通りです

筋肉量の多寡と基礎代謝量の関係を示した図表

一方 骨格筋は

*糖質や脂質の代謝

*熱産生による体温調節

にも深く関わっています
(この関わり方については 次回に詳しく説明します)

このように骨格筋は
従来から考えられていたように
単に運動で使われるだけではありませんから

筋肉量が減ることは
健康上の大問題になります
 

実際に 継続的な運動により筋肉量を増やすと

*健康状態が改善し 

*疾病の発症リスクが減り 

*寿命が延長する

ことが証明されています

また 大腿部が太いほど死亡率は低下する 
というデータもあります

筋肉 侮れないでしょう?

<骨格筋と糖尿病の関連>

骨格筋と病気との関連で
最も注目されているのが糖尿病です

骨格筋と糖尿病との関わりを
説明していきましょう

@骨格筋は
 血中の糖を筋肉内に取り込み 血糖調節に関わる 

骨格筋には
血液中の糖分を筋肉内に取り込むという
血糖の調節に関わる重要な働きがありま


少し詳しく説明しますが

血中に存在する糖の細胞内への取り込みには
GLUT4という
糖のトランスポーターが重要な働きをします

血糖値の上昇に対応して分泌されるインスリン
骨格筋の細胞膜表面にある
インスリン受容体に結合すると

細胞内のIRS PI3 キナーゼ Akt などの
情報伝達分子が順々に活性化され

この情報が最終的に
細胞内のGLUT4 貯蔵庫に伝達され

GLUT4が細胞膜上に移動して
その働きにより糖の取り込みが起こります

これがインスリンが血糖値を下げる機序のひとつです

インスリンの働きにより糖が筋肉に取り込まれるメカニズム

体内の骨格筋の量はとても多いので
骨格筋はこの機序を介して
血糖調節に大きく関わっています

だから 
運動不足や無理なダイエットで骨格筋の量が減ると
骨格筋に取り込まれる糖の量が減るため
血糖調節に悪影響を及ぼします


@骨格筋はインスリン抵抗性に関わる

糖尿病になると
インスリン受容体から細胞内に情報が伝わる
上記の経路のいくつかの箇所が異常を起こします

すると
インスリンは細胞に働きかけているのに
GLUT4が細胞膜上に移動できないので
細胞内への糖の取り込みが低下してしまいます


インスリン抵抗性存在下で筋肉への糖の取込みが低下する機序の解説図

この状態をインスリン抵抗性といいます

以前 糖尿病の解説で紹介したことがあるので
憶えている方もおられるでしょう

血糖上昇に反応して
インスリンがきちんと分泌されているのに
糖が細胞内に取り込まれないので
インスリンが働いていない状態になってしまうのです

前述したように
体内の骨格筋の量はとても多いので
このインスリン抵抗性にも
骨格筋は深く関わることになります

@糖尿病では 代謝が盛んな骨格筋の量が減少している

糖尿病では 遅筋(赤筋)が減少しています

遅筋では
ミトコンドリアでの糖や脂質の代謝が亢進しているので
そうした筋肉が減少してしまうと
ますます糖や脂質の代謝が低下して
病態が進行するリスクがあります

このように 糖尿病と骨格筋の縁は深いのです


<運動で骨格筋を増やすと糖尿病が改善する>

そこで 糖尿病治療における運動の重要性が
運動による減量とは異なる視点から
再認識されることになります

@定期的な運動により骨格筋の量を維持し 増やせれば

筋肉への糖の取り込み量が増えて
血糖を低下させることができます

@GLUT4の量は運動によって増える ので

運動によりGLUT4量が増えることを示した図

運動は
インスリンによる細胞内への糖の取込み
それにともなう血糖低下に
大きく貢献することになります


@運動には インスリンを介さない抗糖尿病効果もあります

*運動時に骨格筋で多量に消費されるエネルギーを補うため
 脂肪や炭水化物を燃焼させるように酵素活性が増加
 その結果として
 糖尿病を悪くするエネルギー過剰状態が改善されるのです

運動によりミトコンドリアの数や機能が増加するために
 エネルギー代謝を増加させることができます

運動がいろいろな機序で
糖尿病の改善に貢献していることを 
ご理解いただけたでしょうか?


<骨格筋に蓄積する異所性脂肪と糖尿病の関連>

近年は 骨格筋のなかに存在する脂肪糖尿病の関連も注目されています

通常の状態では
骨格筋のなかには脂肪は存在しませんが

運動不足や過食により
遊離脂肪酸が過剰状態になり

内臓脂肪での蓄積が限界を越えると
骨格筋のなかにも
脂肪が溜まるようになってしまいます

こうした脂肪組織以外に溜まった脂肪は 
異所性脂肪と呼ばれますが

骨格筋に異所性脂肪が蓄積すると 
糖の取込みが低下し
インスリン抵抗性状態となって
糖尿病が誘発されます

異所性脂肪が蓄積する組織

一方 
運動により
骨格筋内の異所性脂肪には質的変化が起こり
インスリン抵抗性が改善することが
明らかにされています

異所性脂肪に関しては
また稿を改めて詳しくご紹介します

このように骨格筋の減少は
いくつかの機序を介して
インスリン抵抗性を誘導し
糖尿病の発症進展に関与しますが

いずれも運動により改善します

骨格筋が
どのようにして糖尿病の病態形成に関わるか
なぜ糖尿病にとって運動療法が大切かを
ご理解していただけたかと思います

次回は 骨格筋がホルモンを産生する? という
さらに意外な骨格筋の横顔をご紹介します





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