筋肉はホルモンを産生する?
書き手がまだ医学生だった頃 心臓からANPというホルモン (尿を出やすくして体液量を調節する作用を持つ) が産生されていることが明らかになりました 心臓は 体に血液を循環させるポンプの働きをする臓器 という認識が強く ホルモンを分泌するなどというアイデアは 全くなかったので このニュースを聞いたときには 本当にビックリしました こんなことを見つけた人は格好いいなあと 思ったものでした 確かにホルモンというと 内分泌器官と呼ばれる 下垂体 甲状腺 副腎 性腺などの 専門的に分化した特別な臓器からしか 分泌されないと思いがちですが 実は内分泌器官以外の臓器からも ホルモンは産生されています 上述の心臓以外にも 肝臓 骨などが さまざまな働きを持つホルモンを産生しています また生活習慣病の病態形成に深く関わる アディポカインと呼ばれる一連のホルモン群は 脂肪細胞が分泌していることが 明らかになり(これも衝撃的でしたが) インスリン抵抗性をはじめとする さまざまな病態の原因が 脂肪細胞が産生する悪玉アディポカインと善玉アディポカインの 産生バランスの異常であることも 明らかにされています (このことは 近日中に詳しく説明します) そして近年 内分泌器官以外のホルモン産生臓器の仲間に 骨格筋が加わったのです! 骨格筋がホルモンを産生しているなんて イメージできますか? 書き手はそのことを知って またしても本当にビックリしましたよ! 前回のブログにも書きましたが 筋肉というと運動! というイメージが強かったので 糖尿病の病態に積極的に関与しているなんて 想像できなかったし えっ 今度はホルモンまで産生しているの? ゴメン 骨格筋さん 正直言って小馬鹿にしていました といった感じです(苦笑) <筋肉が産生するマイオカイン> で 骨格筋が産生するホルモンは 何種類かありますが それらを総称してマイオカインと呼んでいます 最初のマイオカインは2003年に発見され 現在までに50種類以上ものマイオカインが 同定されています いずれも運動により骨格筋から分泌され 全身性に多様な作用を発揮します その代表的な作用は *筋肉や骨の形成や再生 *抗炎症作用 *糖質や脂質の代謝への関与 *心筋細胞や血管内皮細胞の保護 などです <マイオカインとアデイポカインのクロストークによる代謝調節> また 上述した脂肪細胞が産生するアディポカインと 密接な関係を保っています 特に栄養素の代謝に関しては アディポカインとマイオカインが 作用を制御しあうような関係があります なかには 骨格筋と脂肪細胞の両方で産生されるホルモンもあり アディポ・マイオカインと呼ばれています さらに 代謝反応における 筋肉 肝臓 脂肪組織などの間のクロストークが それぞれが産生する マイオカイン ヘパトカイン アディポカインにより 形成されています ですから マイオカインは 複雑な代謝や炎症反応を巧妙に調節する働きを持った 重要なホルモンと言えます それにしても 脂肪細胞からも骨格筋からも 同じホルモンが分泌されているなんて 医者が言うのもなんですが 本当にヒトの体は不思議なものです、、、 <マイオカイン産生は運動で増強される> さて 前回のブログで 糖尿病治療における運動の重要性を 減量とは異なる 筋肉独自の働きから 見直すことができることを説明しましたが それと同じで 健康の維持・促進に及ぼす運動の効果が このマイオカインによって説明できる可能性があると 注目されています なぜなら 上述したさまざまな生理作用を有するマイオカインは 骨格筋が運動により収縮した際や 定期的な運動を継続した際に産生されることが多く 運動により骨格筋の量が増えれば それだけ多く産生されるからです またインスリンや栄養状態の変化により 産生が誘導されるマイオカインもあります もちろん 書き手が医学生だった頃には マイオカインはもちろんのこと アディポカインですら その存在は知られていませんでしたから この流れは 本当に驚きです そのうちに マイオカインの働きによって 色々な病気の詳細な病態が解明されるかもしれませんし マイオカインの働きや体内動態を修飾する 新しい薬もできてくるかもしれません このあたりは 結構興味深いと 書き手はこの領域の新たな進展を 密かに楽しみにしています(笑) 次回は マイオカインが代謝に及ぼす影響について 少し具体的に説明します
高橋医院