ゼロ金利時代の現代社会
もはや「蒐集」するものがない 
投資する対象がない世界

金利により利益を産んでいた貨幣は
単なる紙切れに変貌してしまい
これ以上 資本主義は成長することができない

金融工学によるバーチャル金融空間
雇用の創出や 労働者の賃金の増加には全く貢献できず
20世紀の社会を作ってきた中間層を崩壊させ

いたずらに資産価値を高め 
バブルを作り経済を不安定化させ
さらには社会の秩序さえも失わせる

と 前回話題にした著書で説かれた水野さんが
大蔵省で長きにわたり為替や金融に従事された
榊原英資さんと対談された

「資本主義の終焉、その先の世界」 
という新書では

資本主義の終焉、その先の世界 という本

では 
次に何を求めて生きていけばよいのか?

という疑問に おふたりで答えられていて 
これが結構面白かったです

21世紀の最大の課題は
行き詰った「蒐集システム」を 
いかにソフトランディングさせるかで

そのためには
進歩や成長を崇め奉るイデオロギーから
脱却しなければならない
と説かれ

そして
実は金利ゼロの社会は 
成熟した望ましい社会であると 
論を展開します

ネバーエンディングストーリーの
ミヒャエル・エンデが語ったように
「豊かさとは 
 必要なものが 必要なときに 必要な場所で 
 手に入ること」
であり

ミヒャエル・エンデ

まさに今の日本は 
そうした豊かな社会なのだと

成長を錦の御旗としていた近代システムは
「より早く より遠くに より合理的に」を
モットーとした社会でしたが

それが行き詰った以上は
「よりゆっくり より近く より寛容に」
というアイデアで
社会を作っていくしかない

うーん 書き手は 
そんなことを考えたこともなかったです、、、

おふたりが語る 
そのための具体的な方策は

「ゆっくり」
大学生の学生生活の期間を伸ばし
ゆっくり そしてしっかりと 
複数の学問を学ばせる

なぜなら 既存システムが崩壊したとき
従来の学問や技術は 
全く役に立たないのだから

大学での教養の習得を勧めるポスター

そして 
学生が社会に出るのが遅くなる分 
定年を延長して
多くの人々が社会に
より長く貢献できるようにする

「近くに」
政治も経済も 
首都圏への一極集中をやめ 
地方分権を実現する

「寛容に」
高額所得者が税金の支払いに寛容になり 
富の分配を実現する

そして 
社会システムで最も尊ばれる中心は
中世では神 近代では人間 
そして現代では貨幣でしたが

次の時代の中心的価値観を何にすべきか
時間をかけて考えていくべきである

なるほどね~

面白いのが 
ここで芸術が登場してくることです

榊原さんは 今の「ゼロ成長」社会
「停滞」しているのではなく
「成熟」しているのだと説かれ

日本には過去に 
そうした社会が存在していたと指摘されます

それが 高度経済成長を成し遂げた 
元禄時代の江戸前半のあとの
江戸文化が爛熟期を迎えた 
文化・文政時代の江戸後期であると

江戸時代の様子

そして 
成長戦略などと過去の高成長を
ノスタルジックに求めるのではなく

いかに成熟の果実を享受すべきか考えた方が良い
と語られます

また水野さんも
新しい社会システムで中心となるのは 
芸術ではないか 
と指摘されます

ここで芸術を重視するスタンスが出てくるのは
個人的には
シンパシーを感じるところもありますが

経済の行き詰まりを論じている文脈で
唐突に芸術が出てくるのは 
なんとなく違和感もある(笑)


もはや これからの時代では 
成長はしないし 賃金も上がらない

しかしながら 既に日本は
エンデが語ったような 
そこそこ豊かな社会になっているし
多くの人々のモノに対する欲求も減ってきている

だから 今の日本の社会は

金儲けをしようとする人にとっては 
退屈な時代だけれど

精神的な豊かさを求めようとする人にとっては 
エキサイティングな時代で

そうした認識を持って
社会を楽しむ方向に価値観をシフトした方が良い 

ただし
資本主義は 元来 
貧しい人を豊かにするという発想は持たず

現代社会を席巻しているグローバリズムは 
格差を拡大するのが宿命だから

その点については 充分に配慮しなければならない

年々拡大する貧富の格差を示したグラフ

と 論をまとめられます

そして最後に

ゼロ成長社会に適応するには 
ポルトガルの格言が指摘するように

「今日よりいい明日はない」
と認識することである

既存のシステムが行き詰って 
新しいシステムが出来上がるには
大抵は100年から200年はかかる

今はそのさなかにいるという認識を持って 
模索していくしかない

と 対談を〆られています

書き手は おふたりの対談を読みながら
面白いけれど 
なんとなく浮き世離れしているかなと
感じていましたが

でもそんな風に感じるということが 
実は浮き世離れしていることだよ と
おふたりは問うておられるのかもしれませんね

それにしても
「今日よりいい明日はない」という格言は
いかにもポルトガルらしいと思い

個人的には 
ちょっとツボにはまってしまいました(笑)

ポルトガルの街並み




さて 時代の変換期か、、、

変換のサイン




でも 時代の真っただ中で生きていると
そんなことを実感するのは 
難しいですよね(苦笑)
高橋医院