書き手が医学生だった頃に
「魔法の弾丸」というタイトルの本を
読んだことがあります

どんな内容か 
このタイトルからイメージできますか?

この本は 
抗生物質の開発の歴史について書かれた本で

当時 医学部3年で 
細菌学を学んでいた書き手は
とても興味深く読んだのを憶えています

魔法の弾丸

キャッチコピーというか 
読み手を惹きつける文言は大事で

「魔法の弾丸」
というタイトルもさることながら

「選択毒性」という言葉にも 
惹きつけられるものがありました

選択毒性


選択毒性って一体何よ?

と思い
ページをめくるスピードが
速くなったような気がします(笑)

<”魔法の弾丸”としての抗生物質>

抗生物質は 
ヒトに感染して健康を害させる細菌を
やっつける物質で

フレミングが1928年に 
青カビの成分から見つけたペニシリン
世界で最初の抗生物質とされ

ペニシリンの発見を報告する論文

パウル・エールリヒ
抗生物質を 
副作用なしに病原体となる細菌のみを
やっつける特効薬として

「魔法の弾丸:Magic bullet」
と呼び 

その概念を広めました

パウル・エールリヒの肖像画
ちなみに書き手は
ブルーチーズが好みで
ワインを飲みながらつまむことがありますが

ほんの少し 
青カビとペニシリンのことを
思い浮かべることもあります(苦笑)

ブルーチーズ


<”選択毒性”を有する抗生物質>

では「魔法の弾丸」は
どうしてヒトの細胞はやっつけずに 
細菌だけをやっつけるのか?

それは 
ヒトの細胞は有していないけれど
細菌が増殖するのに必要な
代謝経路に作用することで

ヒトの細胞には毒性を示さないけれど 
細菌のみに選択的に毒性を示せるのです

だからこそ 抗生物質は
「選択毒性」を有するわけです

なるほど~ なんか格好良いなあと 
書き手は読みながら思ったものです(笑)

<抗生物質の作用機序>

抗生物質が細菌をやっつける機序としては 
次の3つがあります

@細菌の細胞壁の合成阻害

細菌も生き物ですから 
細胞壁を有し外界と隔たりを作っていますが
(ヒトの細胞には細胞壁はありません)

抗生物質の一部は 
この細胞壁を作らせないようにして
細菌が生きていくのを阻みます

細胞壁の合成阻害を解説するイラスト

@タンパク合成阻害

細菌は ヒトの細胞と同じように
細胞内でリボゾームでタンパク質を作り
自らの機能発現に供していますが

抗生物質の一部は 
このタンパク合成を阻害して 
細菌の機能発現を阻みます

ヒトのリボゾームと細菌のリボゾームは
質的に異なるので
抗生物質の影響は受けません


リボソームの合成阻害を解説するイラスト

@核酸合成阻害

細菌のDNA RNAの合成を阻害して 
細菌の複製を阻害します

@静菌的抗生剤と殺菌的抗生剤

タンパク合成阻害作用を持つ 
テトラサイクリン マクロライド系
細菌の発育を抑制するので 
静菌的抗生剤と呼ばれ

細胞壁合成阻害作用を有する 
βラクタム ホスホマイシン系抗生物質
核酸合成阻害作用を有する 
ニューキノロン系
殺菌的抗生剤と呼ばれています

抗生物質の発見と開発は
20世紀初めの頃の医学研究の花形でした

細菌学は基礎医学の王道となり
多くの研究者が 
ヒトの健康に害を及ぼす病原微生物のハンターとして
医学史に名を残しました

「微生物の狩人」という文庫本

日本人では 
北里柴三郎や野口英世が有名ですね

また さまざまな抗生物質の発見により
長い間人類を苦しめてきた
結核 ペスト チフス 赤痢 コレラなどの
伝染病は征服され
それによりヒトの平均寿命は大幅に伸びました

まさに「魔法の弾丸」は 
人類の健康増進に大きな貢献をしたのです

しかし こうした時代は 
今となっては古き良き時代のように感じられます

というのも 
現代の医療の世界では
抗生物質の乱用によりさまざまな問題が生じ

それらは大きな社会的問題にも
なっているからです

次回は そうしたことについて詳しく説明します


高橋医院