ヒトはなぜ呼吸する?
前回は ヒトはなぜ食べるかを説明しましたが では ヒトはなぜ 呼吸をするのでしょう? 「そりゃ 酸素が必要だからだよ」 はい 確かにヒトは 空気中から酸素を体の中に取り込むために 呼吸をしています では どうして ヒトの体は酸素を必要とするのでしょう? ヒトが食べるのは エネルギーを得るためでした そして ヒトが呼吸するのも エネルギーを得るためなのです 体内で栄養素をエネルギーに変換するのに 酸素が必要とされます 細胞のなかで 酸素を用いて栄養素を燃やし エネルギーを得るイメージです 私達は エネルギーを作るために 四六時中休まず せっせと呼吸して 酸素を体内に取り入れているのです だから 呼吸ができなくなり 酸素が体内に入っていかなくなると エネルギーが枯渇して 命の営みを閉じることになってしまう 基礎代謝が行えなくなるので 生命活動が終わってしまうのです では どうしてエネルギーを産生するのに 酸素が必要なのでしょう? どうやって 酸素を用いて栄養素を燃やしているのでしょう? その話は 出し惜しみして次回以降に詳しくお話しすることとして 今日は 体内で産生されるエネルギーの正体について 説明したいと思います ATP という単語を聞かれたことはありますか? 中学校の生物の授業で 勉強したことがあると思います ATPは 痛風の解説をしたときに 痛風の原因のプリン体の材料となる物質として 紹介しましたが 正式名称は アデノシン三リン酸(adenosine tri phosphate : ATP)で アデニン(塩基) リボース(五炭糖) リン酸 から 構成される物質です アデニンとリボースが結合したアデノシンに 3分子のリン酸が結合しています ちなみに アデノシンのように 塩基と糖が結合した化合物がヌクレオシドで これにリン酸基が結合すると ヌクレオチドになります ヌクレオチドは DNAやRNAの構成単位でもあり 細胞内情報伝達に関わるcAMPも ヌクレオチドの仲間です このATPこそが ヒトの体で用いられているエネルギーの正体です 書き手が医学部3年生のとき ゼミ形式の授業で輪読した英語の生化学の教科書に 「ATPは人体のエネルギー通貨である」 と書かれていて 上手い表現をするものだと 感心したのを憶えていますが ATPを構成する3個のリン酸の 2番目と3番目の結合には 大きなエネルギーが蓄えられており リン酸の結合がひとつが離れて ATPがADP(アデノシン二リン酸)になるとき 1モルあたり 約7Kcalのエネルギーが放出され ヒトはこのエネルギーを さまざまな生体反応に用いています ATPは さまざまな場所で さまざまな状況下でおこる生体反応で どこでも いつでも 利用されるので 人体のエネルギー通貨と称されるのです このATPは 細胞内で栄養素から作り出されます 1日に 体重とほぼ同じ量のATPが産生されますが それらは できたと同時にあっという間に使われてしまい 貯蔵することはできません ちなみに ヒトの体内では 摂取した栄養素が有するエネルギーの 約45%がATPに変換され 残りの55%のエネルギーは熱となり 体温保持に使われたり 空気中に放出されます 書き手は 体温維持に多くのエネルギーが使用されているのが ちょっと意外でした この熱放散の話は あとで詳しくします また 体内で作られたATPの90%近くが タンパク質の合成に使われており それだけ ヒトの体にとってタンパク質は重要なのですが タンパク質については また稿を改めて詳しく説明したいと思います さて 話が色々と脱線してしまい恐縮ですが(苦笑) ヒトの生命活動におけるATPの重要性 をご理解いただけたでしょうか? そして これが今日のお話のいちばん重要なポイントですが その大事なATPを栄養素から作り出す過程で 酸素が必要とされます 繰り返しになりますが だからこそ ヒトは呼吸をして酸素を体内に取り込んでいるのです 次回から ヒトの体内で栄養素からATPが作り出される過程 そこでどうして酸素が必要になるかを詳しく説明します
高橋医院