細胞膜を自由に通過できる
脂溶性の情報伝達物質は

核に到達して 
核内受容体に結合し活性化します

<核内受容体とは?>

@標的遺伝子のDNA転写を調節する

核内受容体は 
ホルモンなどのリガンドが結合すると

核内で
標的遺伝子のDNA転写を調節すること

が大きな特徴です

核内受容体が核内で標的遺伝子のDNA転写を調節するメカニズムを示す図

転写が誘導された遺伝子が翻訳するタンパク質
その機能を発揮し 

これがリガンドの作用となって
さまざまな細胞・生体反応が生じます

リガンドの核内受容体への結合により新しいタンパク質ができる過程を示した図

こうした核内受容体は 
ヒトでは50種類ほど存在し

発生 恒常性 代謝など 
生命維持の根幹に係わる遺伝子の
転写に関与しています


@代表的な核内受容体とそのリガンド

*甲状腺ホルモン受容体 
 :リガンドは 甲状腺ホルモン

*PPARα β γ
 :リガンドは 脂肪酸 プロスタグランジン

*ビタミンD受容体 
 :リガンドは ビタミンD

*レチノイドX受容体 
 :リガンドは レチノイド

*ステロイド受容体
 :リガンドは ステロイドホルモン

*エストロゲン受容体 
 :リガンドは 女性ホルモンのエストロゲン

などがあります

核内受容体のメンバーを列記した表

@異なる種類の核内受容体どうしが二量体を形成する

核内受容体の大きな特徴のひとつは

異なる種類の核内受容体どうしが 
二量体を形成して機能することがある

ことです

だから 
ひとつの核内受容体が
複数の異なるリガンドにより
活性化され得る

ひとつの核内受容体が複数の異なるリガンドにより活性化され得る過程を示した図


たとえば

ビタミンDに応答する標的遺伝子に結合する
核内受容体は

ビタミンD受容体(VDR)と
レチノイド受容体(RXR)が
二量体を形成して出来ていますから

ビタミンD レチノイドの
双方により活性化されます

こうした現象が 
核内受容体の働きを
より多彩に そして より複雑にしている
原因のひとつです



<核内受容体により発揮される機能>

リガンドが結合した核内受容体により
発揮される機能はとても多彩で

*糖質・脂質代謝

*細胞回転・増殖

*胆汁酸代謝

*解毒

などに関わります

また 
核内受容体が発現調節する遺伝子は 
病気に関与するものが多く

医薬品の10%程度は 
核内受容体をターゲットとした薬剤です

<標的遺伝子の転写制御>

@標的遺伝子の結合領域に結合して
 遺伝子発現を制御する

核内受容体が 
どのようにして標的遺伝子の転写に
関わるかというと

核内受容体は
標的遺伝子の
プロモーター エンハンサー領域に存在する
結合領域に結合して
標的遺伝子の発現を制御します

核内受容体が標的遺伝子のプロモーター エンハンサー領域に存在する結合領域に結合する過程を示す図

@ひとつの核内受容体は
 複数の標的遺伝子に結合する

核内受容体と結合領域の結合の
特異性は比較的弱いので

ひとつの核内受容体は
複数の標的遺伝子に
結合することが出来ます

そのため 
核内受容体のリガンドは 
複数の遺伝子の転写を制御し
複数のタンパク質が
それぞれの機能を発揮するために
多彩な機能を発揮し得るのです

ここが 核内受容体とそのリガンドが有する 
とても興味深い特徴です

<構造>

核内受容体は 5つのパーツから構成され

*リガンド結合ドメイン

*DNA結合ドメイン

を含みます

核内受容体の構造図

@リガンド結合ドメイン

リガンドと結合する部位で

リガンドが結合すると 
受容体の立体構造が変動し
コアクチベーター・コリプレッサーが 
受容体と結合できるようになります

@DNA結合ドメイン

標的遺伝子に結合する部位で

標的遺伝子のプロモーター上に存在する
結合領域である
ホルモン応答領域(HRE)に結合します

@コアクチベーター コリプレッサー
 
転写共役因子と呼ばれるもので

核内受容体と複合体を形成し
核内受容体の
標的遺伝子の結合領域への結合を制御します

リガンドが
核内受容体に結合していない状態では
コリプレッサーが核内受容体に結合していて
標的遺伝子とは結合できませんが

リガンドが
核内受容体に結合すると 
コリプレッサーが解離して
代わりにコアクチベーターが結合するので
標的遺伝子と結合できるようになります

コアクチベーター コリプレッサーの作用過程を示した図

重要なことは
コアクチベーター・コリプレッサーの発現には 
臓器特異性があり

たとえリガンドが核内受容体結合しても
臓器によって
リガンドの機能が発現される場合と
発現されない場合があります

つまり ホルモンなどが
特定の臓器にだけ影響を及ぼすのは
こうした
臓器特有の
コアクチベーター・コリプレッサーの発現によるのです

毎度のことですが 
ヒトの体はうまくできています!

核内受容体とコファクターの共同作業を示す図

ということで 
少しオタクっぽいお話になり恐縮ですが(苦笑)

ホルモンなどが 
臓器特異的に多彩な機能を発揮できるのは

*核内受容体に結合して 
 それを活性化する

*核内受容体が発現制御する標的遺伝子は
 複数存在するので
 多くのタンパク質が翻訳され
 その結果として 
 さまざまな機能が発揮される

*核内受容体と標的遺伝子の結合を制御する
 コアクチベーター・コリプレッサーの
 発現パターンには臓器特異性がある

といった理由によることを
ご理解いただけたでしょうか?

リガンドが核内受容体に結合して遺伝子発現が制御される全体の過程をまとめた図

核内受容体は 
生命現象に非常に重要な役割を果たしているし
治療薬の開発とも密に関連してくるので 
とても大切なのですが

絡んでくる因子も多いし 
機能も多彩なので
勉強していて 
いつもこんがらがってしまいます(苦笑)
高橋医院