脂質異常症の薬物治療の目標値
薬物治療により 血中脂質値をどこまで下げるべきか? 血中脂質をコントロールする目的は 動脈硬化の発症・進展を 防ぐことですから 治療目標値は *動脈硬化により生じる疾患の有無 *動脈硬化を誘導する疾患の有無 により異なります <動脈硬化に関連する疾患の有無による目標値の差異> @そうした疾患の影響が全くない 低リスクの方は *LDL-C 160mg/dl未満 *TG 150mg/dl未満 *HDL-C 40mg/dl以上 であるのに対し @狭心症や心筋梗塞にかかったことがある方は *LDL-C 100mg/dl未満 *TG 150mg/dl未満 *HDL-C 40mg/dl以上 @糖尿病 脳梗塞 閉塞性動脈硬化症がある方は *LDL-C 120mg/dl未満 *TG 150mg/dl未満 *HDL-C 40mg/dl以上 このように そうした病気のない方に比べて 特に LDL-Cに関して より厳しいコントロールが求められます <動脈硬化の危険因子の有無による目標値の差異> また 治療目標値は 動脈硬化の危険因子の有無によっても 異なります 動脈硬化の危険因子は *男45歳以上 女55歳以上 *高血圧がある *耐糖能異常がある *狭心症や心筋梗塞の家族歴がある *HDL-C値が40mg/dl未満 の各項目で @危険因子が全くない場合 *LDL-C 160mg/dl未満 *TG 150mg/dl未満 *HDL-C 40mg/dl以上 であるのに対し @1~2個Yesの場合 *LDL-C 140mg/dl未満 *TG 150mg/dl未満 *HDL-C 40mg/dl以上 @3個以上Yesの場合 *LDL-C 120mg/dl未満 *TG 150mg/dl未満 *HDL-C 40mg/dl以上 が 治療目標値になり やはり 有している危険因子が増えるにつれ より厳しいLDL-Cのコントロールが 求められています 危険因子の数が増えるにつれ 心血管イベントの発症リスクが 高まりますから リスクが多い場合は より厳しいコントロールが求められるのは 致し方ありません <治療により改善したら 薬はやめられるか?> 薬剤を用いた脂質異常症の治療を 始めるにあたって よく患者さんから質問されることは LDL-C値やTG値がいくつになったら 薬を飲むのをやめられますか? ということです できるだけ薬は飲みたくない という患者さんのお気持ちはお察ししますが 既に解説したように 薬は 体内でLDL-Cや中性脂肪が 作られるのを抑制しているだけで お薬を飲むことで 体質や生活習慣まで改善させるわけでは ありませんから 残念ながら 薬を飲むのをやめたら 多くの場合はまた異常値に戻ってしまいます もちろん 頑張って減量されたり 生活習慣を改善されれば 併用しているお薬の種類を減らしたり 量を減らすことは可能です ただ 完全にお薬をやめられるケースは 残念ながらとても少ないのが現実です そうしたことをよく理解していただき お薬を飲み始めたら 付き合いが長くなることを ご了解いただきたいと思います <コレステロールを下げ過ぎると 脳出血やがんになりやすくなる?> コレステロールが低い方が がんや脳出血の死亡率が高いという話を 聞いたことがあるので 薬を飲んで下がりすぎても大丈夫なのか? という心配を 患者さんから聞かれることも たびたびあります しかし コレステロールが低い方が がんや脳出血の死亡率が高いという説は 追跡調査における「見かけ上の関係」に 過ぎないのです 低コレステロール血症で がんになるのではなく がん細胞がコレステロールを消費するために コレステロールが下がっているのです また スタチンなど薬剤を用いて コレステロールを下げた場合に がんが増えたという結果は 報告されていません 脳出血と低コレステロール血症の関連についても 低栄養で血管が脆弱になっていることが 原因と考えられ 薬剤でコレステロール値を下げた場合に 脳出血が増加するという 明らかな証拠はありません 原因と結果を混同して 早合点するのは危険です お薬でLDL-C値を下げることを 過度に心配する必要はありませんので 安心して服用していただきたいし 心配なこと 疑問なことがあれば いつでも遠慮なく 質問していただきたいと思います
高橋医院