太ったウエイターさんに給仕される
ゲストは ついついたくさん食べてしまう
というお話を紹介しましたが

これに関連して

デブはヒトにうつる

という話題が
世間を賑わしたことがありました

インフルエンザや風邪と同じように 
肥満も周りの人に感染してしまう?

なかなかショッキングで 
そしてとてもキャッチーな話題なので
ちょっと ご紹介しましょう

きっかけになったのが
2007年に 
世界でいちばん有名な医学雑誌NEJMに掲載された
1本の論文でした

NEJMに掲載された論文

この論文は 
アメリカ東部のマサチューセッツ州で
1971年~2003年の30年以上の長期にわたり
21~70歳の男女12000人以上の
沢山の人々を対象にした
疫学研究のデータをもとに

友人 兄弟 配偶者 
近所の隣人とのつながりといった
社会的ネットワークと 
肥満になるリスク
の関係を検証した研究の成果です

研究では

ある人の周囲にいる人が
BMI・30以上のかなりの肥満になった場合
その人も続いて肥満になる確率

を検討しました

その結果 
その人が肥満になる確率は

*配偶者が肥満になった場合 
 37%増加

*兄弟姉妹が肥満になった場合 
 40%増加

*友人が肥満になった場合 
 57%増加

していました

ちなみに 
ある人の近所の隣人が肥満になったでも
その人が肥満になる確率はほぼ0%で
単に家が隣という社会的要因は 
肥満になるリスクには関与しない

肥満の人と社会的なつながりが強いと肥満になることを示すグラフ

さらに詳しい解析もなされていて

友人といっても 
どちらか片方だけが友人と思っている間柄より
お互いが友人と思っている深い間柄の方が 
ダントツにリスクが高く

異性より同性の友人の方が
リスクが高い

また 兄弟姉妹でも 
異性より同性の方がリスクが高い

お互いが友人と思っている関係 同性の友人 同性の兄弟姉妹の方が肥満になるリスクが高いことを示すグラフ

同性のマブダチは危ない 
ということですね(笑)

みんなが肥満の同性の友人たちの写真

面白いですね~ どうしてなのかな?

ヒトが
肥満になりやすい遺伝子を有している場合
肥満になるリスクは
およそ30%と報告されていますから

遺伝的な因子を有していることより
周囲の人が肥満になる社会的状況の方が
はるかに肥満になるリスクが
大きいということです

まさに デブは 
インフルエンザのように ヒトにうつる?

なんともショッキングな結果です

こうした 
社会的要因が肥満に影響を及ぼすという研究は
以前からなされていて

太ったウエイターさんの話題でも紹介しましたが

太ったヒトの写真を見ると 
普通の人や痩せた人の写真を見たあとより
たくさんクッキーやキャンディを食べることが報告され

ヒトは
周囲の食べる量に合わせて
自分の食べる量を決める傾向があることも
報告されています

要するに

*近しい関係の人に太った人が多かったり

*周囲にたくさん食べる人が多いと

肥満のリスクが高いということです

確かに街でマンウオッチングをしていると
ふくよかな方の隣に 
ふくよかな方がおられる確率は 
高い気がします

一緒に歩く同性の肥満の友人たち

ただ 現象としてそうしたことが見られるのは 
理解できますが
どうしてそうなるのでしょう?

たとえば親子の場合
親がおデブでジャンクな食事ばかりしていたら
子供が影響を受けておデブになってしまうのは 
理解できます

みんなが肥満の家族

しかし 友人がおデブになることが
その友達がおデブになることに 
どのように影響するのでしょう?

沢山食べる 運動しない ジャンクな間食が好き

友人のそうした傾向が 
影響を及ぼすのでしょうか?

色々な理由が考えられるが 
いちばん大きな理由は

友人同士で 
太ることを容認してしまうからではないか?

と 論文の筆者たちは考察しています


肥満をネガティブに捉える気持ちがない
友人同士では

片方が太ると 
その太った理由である
食生活を含む生活習慣を
友人も抵抗なく受け入れてしまうから 
デブがうつる

なるほど
太っても構わないわという価
値観を共有する友人同士の間で
肥満は広がっていくというわけですね

だとすると 
もし太ってしまったら
肥満は健康に良くないわよ 
という考え方の友人と
積極的に付き合うようにすれば
良いということ?

こうした 
病気を社会的なつながりの観点から
検討する方法論は

ネットワーク医学と呼ばれ

肥満だけでなく 
さまざまな分野で研究が行われています

病気は

*遺伝子やタンパク質の
 ネットワークの異常によって生じ

*肥満 糖尿病 脂肪肝などの
 病気同士のネットワークも存在しますが

*さらに 社会ネットワークが 
 病気の発症に影響を及ぼしている

というコンセプトのようです

ネットワーク医学の説明図

一方で 脳科学の専門家は 
肥満がうつる理由のひとつに
ミラー・ニューロン
の存在を指摘しています

ミラーニューロンは 
霊長類などの高等動物のみに
存在する特殊な細胞で

他人が目の前で何らかの行動を取った場合
その行動に反応して
自分も同様の行動を起こすように
つまり 真似っこをするように命令します

ミラーニューロンの説明図

このミラー・ニューロンが
強力に活動するのが

*相手と共感したとき

*何かを我慢したり 
 メンタル的に不安定で意志力が弱まっているとき

だそうで

上述したネットワーク医学の推論を
脳科学的に裏付けているようで面白いです

なるほどです~

さて 
読み手の皆さんの身近には
太った影響力の強い同性の友人は
おられませんか?

もし いらしたら

そして あなたが 
体重に頓着しないタイプ
あるいは ダイエットに悩まれていたら

充分にご注意ください(笑)
高橋医院