サーチュインを活性化させるNAD
サーチュイン遺伝子・タンパクが 老化抑制をはじめとした さまざまな有意義な作用を 有することがわかりましたが <サーチュインの機能発現にはNADが必要である> サーチュインの主たる作用である 脱アセチル化には NADが必要とされます NADは ミトコンドリアの電子伝達系で解説したように エネルギー源となる ブドウ糖・脂肪酸などの栄養素が 電子伝達系でエネルギー・ATPに変換される過程で 電子伝達に関わる水素原子を受け取る 電子供与体ですが 一方で 補酵素としても働きます サーチュインが タンパク質を脱アセチル化するときに 反応基質として消費されるのです 上図に示されるように サーチュインにくっついているNADが タンパク質から外れた アセチル基の受け取り手になり 反応が進みます したがって サーチュインの脱アセチル化活性は NADが少ないと保てませんし 充分にあると高まります NADによるタンパク質脱アセチル化の効用は *抗酸化酵素群の遺伝子発現を高める *炎症性タンパク質の遺伝子発現を抑える といったことで 酸化ストレスを防ぎ 慢性炎症を抑制し その結果として 老化反応が抑制されます こうしたことから NADを増やす薬 合成系を活性化する薬が 長寿薬の候補として注目されています <NADの合成系> NADの合成系は デノボ系とサルベージ系のふたつがあり @デノボ系は アミノ酸のトリプトファンから NADを作る新規合成経路で @サルベージ系は NADの代謝産物を材料にNADを再合成する いわば廃物利用系で デノボ系より反応段階が少なく 手間をかけずに簡単にNADを作れます サルベージ系では 上図の右側に示されるように 酵素・NAMPTの働きにより NADの代謝産物として生じる ニコチンアミド(NAM)が NADの前駆体の ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)に変換され 酵素・NMNATの働きにより NMNがNADに変換されます @NMN NMNは ビタミンB3の一種ですが 近年 サーチュイン遺伝子の活性化を介して 老化抑制作用を示すこと が明らかにされました マウスにNMNを投与すると *インスリン抵抗性の改善 *炎症反応の抑制 *抗酸化酵素の遺伝子発現亢進 が見られたのです また 脂肪酸の燃焼を亢進させて 代謝を活発化させ体重が減ること 骨格筋でのエネルギー代謝の促進 なども明らかにされました さらに 糖尿病 アルツハイマー 心不全などの疾患にも 効果があると報告されています そして 興味深いことに 歳をとったマウスでは こうした効果が見られますが 若いマウスでは効果が見られません これは 老化するとNADが減少し NMNを体内でつくる能力も減少しているためで 高齢者へのNMNの投与が 抗老化作用やさまざまな病気の治療に 効果があるのではないかと期待され 臨床治験も始められています @カロリー制限はNADを増加する ちなみに サーチュインの働きを高めるNADを増やすには もっとシンプルな方法があります それが カロリー制限です カロリー制限したサルは長生きする というセンセーショナルな実験結果が 話題を呼びましたが この現象の原因のひとつが カロリー制限による NADの増加によるサーチュイン活性化 だったわけです 逆に栄養過多だと NADが減少してしまい サーチュインが働かなくなり 老化や生活習慣病が起きるわけです ということで サーチュインを活性化させる因子として NADやNMNが大いに注目されています
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