夢の抗老化薬
老化シリーズの最後に 少し夢のある話題を提供しましょう ビタミンB3の一種である ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)が サーチュイン遺伝子を活性化して 抗老化作用を示し 加齢により生ずるさまざまな病気の改善にも 貢献する可能性を紹介しましたが NMN以外にも 抗老化作用を示す物質が注目されています <メトホルミン> メトホルミンは糖尿病の治療薬で 当院に通院されている糖尿病の患者さんの多くが 服用されている薬です これまでにも 酸化ストレスの減少作用などが 報告されていましたが 近年 その抗老化作用が注目されています メトホルミンを投与したマウスは そうでないマウスに比べ *寿命が5%延びること *摂取カロリーが減り コレステロール値が下がること *腎臓病やがんの発症が減少すること が報告され 約78,000人の糖尿病患者さんと 同数の健常人を対象とした大規模研究では メトホルミン治療を受けている糖尿病患者さんは 長生きすることが示され メトホルミンを投与された 70歳代の糖尿病患者さんは 糖尿病でない人に比べ 死亡率が15%減少していることが 明らかにされました メトホルミンにより ミトコンドリアの電子伝達系が抑制され ATPが産生されなくなると AMPKという 細胞内エネルギーセンサーが活性化され このAMPKが 後述するmTORC1を抑制することで 老化が抑制されると考えられています <ラパマイシン> ラパマイシンは 微生物が産生するマクロライド化合物で 免疫抑制作用を有していますが mTORC1という 細胞内シグナル伝達に関与する タンパク質キナーゼの作用を阻害します @mTOR1 mTORC1は インスリンなどの成長因子 栄養・エネルギー状態 酸化還元状態 といった 細胞内外の環境情報を統合し 状況に応じた細胞の分裂 生存などの調節に中心的な役割を果たします インスリンやアミノ酸が豊富に存在すると mTORC1は活性化され リボソームにおけるmRNA翻訳を促進し タンパク質合成を増加させるとともに オートファジーを阻害して タンパク質の分解を抑制します これらのmTORC1の作用は 老化を促進することが明らかになっています また mTORC1が変異を起こして 活性が低下すると長寿になることが報告され サーチュイン非依存性の さまざまなメカニズムにより老化が抑制され 長寿になると考えられています そこでmTORC1の働きを阻害する ラパマイシンが 抗老化薬として注目され マウスでは ラパマイシン投与による寿命延長効果が 認められています このように メトホルミンも ラパマイシンも 老化を促進する 細胞内情報伝達系のmTORC1の抑制により アンチエイジング作用を発揮すると 考えられています <アデイポネクチン> 内臓脂肪細胞が分泌する 善玉アデイポカインの アデイポネクチンも その抗老化作用が注目されており やはり AMPK活性化によるmTORC1抑制が その作用に関与しています <老化細胞除去によるアンチエイジング> 最後に 全く新たな視点による 抗老化治療を紹介します 体内での老化細胞の蓄積が 慢性炎症を誘導し 生体の老化を促進することを説明しましたが この老化細胞を体内から取り除く治療が 開発されています マウスの実験では 老化細胞を除去したマウスは 除去しなかった同世代のマウスに比べて 腎臓機能の向上 心機能の強化 がん発病の遅れ 白内障の減少などがみられ さらに寿命も25~35%も延長した と報告されました ヒトでも老化細胞を 体内から取り除くことができるように 老化細胞を選択的に除去できる化合物が 探求されているそうです これまで解説してきたように 老化が起こる機序については かなり詳細に明らかにされてきましたから そうした知見をもとに 夢物語ではないアンチエイジング治療が ヒトに応用される日も遠くないかもしれません それまで頑張って 健康に長生きしましょう!(笑)
高橋医院