パウル・クレーの話を続けますが

彼は 音楽と絵画 の両方に
強く惹かれていて

音楽の分野で用いられている 
ポリフォニー というコンセプトを
絵画にも導入しようとしました

クレーが書いた「ポリフォニー」というタイトルの本

ポリフォニー って なんだ?

ポリフォニーとは 
もともとは音楽用語で

全く異なる旋律を歌う複数の声が 
同時に進行し
それら複数のパートが
互いに影響しあうことによって
協和したひとつの曲を形成する

18世紀に生まれた 
そのような音楽形式を指します

ポリフォニーを表す音符

中世の教会音楽で
よく用いられた技法のようで

教会全体を共鳴させるような
響きわたる宗教音楽の音響効果は
ポリフォニーに依るところが大きいと
言われています

中世の宗教音楽の声楽隊

この技法のポイントは

複数の異なる動きの音による構成で
それぞれが勝手に
自己主張をしながら
その混沌の中で 
なにか予定調和的なものを創造する

それが 
聞く人の心の琴線にうったえるのかもしれません


さて クレーは

自立した複数の主題が同時に存在するのは 
音楽に限ったことではない

と語り

最初は 
水彩画で透明な色層を重ねていく画法

水彩画で透明な色層を重ねていく作品

やがて 
点描と太い線による区切りを用いて
画面の多声性を構成する画法を
駆使することにより

画面の多声性を構成する画法を駆使した作品

絵画におけるポリフォニー表現を
試みたそうです


前回のブログ
こうした画法により 
時間の流れを表現しようとしたのではないか
と推測しましたが

展覧会で購入した本を読むと 
彼が表現したかったのは

「時間の流れ」 ではなく 
「過去と現在の同時性」
 だったようです


なるほどです

経時的な流れの中で立ち止まる 
のではなく

タイムワープするような感覚 意識を 
表現したかったのでしょうか?


そして 
絵画におけるポリフォニー表現で最も重要なもの

それこそ まさに色彩!

クレー 奥が深いです!

運動も描かれた作品

もうひとつ忘れてならないのが 
運動というコンセプト

ポリフォニーで表現したいことのひとつは
世の流れを表す 運動 なのでしょう

複数の主題の同時多発性と相互作用

全体の流れとしての運動

クレーが表現しようとした 
このようなコンセプトが妙に気にかかるのは

現代社会や科学の主流である 
分析主義的なパラダイムに
行き詰まり感を憶えているからかもしれません

書き手のブログでは
度々 木を見て森を見ず 
という表現が出てきますが

大学で研究をしていた頃も
いつも 分析主義的なパラダイムには
疑問を持っていましたし

今 ブログを書きながら 
世の中の色々なことについて考えるときも
それは変わりません

分析的なスタンスや手技は 
慣れると意外に簡単で
ある意味で 何の疑問もなく
その世界に没頭することが出来ます

森の中で木だけ見ている人

一方で

世の中で起こっている
さまざまな事象を
包括的に解析したり 
俯瞰的に見ることは

想うのは簡単ですが 
実際にはなかなか困難です

だけど それをやらないと 
根本的な理解はできないのかもしれない

森全体の構図

クレーの作風を詳しく学んで 
ふと そんな思いを再認識した次第です

そんなこと 
AIなら簡単にできるのかな?(笑)
高橋医院