知らぬ間に働いている神経
心臓を動かす 呼吸をする 食べたものを消化して吸収する いずれも 生きていくために欠かすことが出来ない 大切な働きですが おい 心臓 ちゃんと拍動してくれよ とか 小腸さん 栄養分の吸収 お願いしますよ とか ヒトは そんな具合に意識して 心臓や腸を働かせているわけではありません 心臓や肺や消化管が 意識していないのに きちんと働いてくれているのは 自律神経のおかげです 今日から 自律神経 のお話をします なぜ 自律神経の話をすることにしたかというと 当院を受診される患者さんで 自律神経失調症が疑われる方が 少なくない でも 自律神経失調症については 医学部の授業では あまり教わらないのですよ そうした事情により 自律神経失調症のことを 勉強し直したのですが 例によって 病気を理解するには まず”病気でない状態”を理解してから ということで 最初に 自律神経の解説をしようと思います <自律神経とは?> ヒトの体の神経は 中枢神経 と 末梢神経 に 分かれます 中枢神経は 脳と脊髄 で 末梢神経は 脳と脊髄から出て 脳神経 脊髄神経として 全身の臓器に張り巡らされています @末梢神経は 自分の意思でコントロールできる 体性神経(動物神経系)と コントロールできない 自律神経系 に分かれます 体性神経は 脳からの手足を動かすといった命令を 筋肉などの運動器に伝える運動神経と 痛みなどのさまざまな知覚を 脳に伝える知覚神経があります そして 自らの意思では その働きをコントロールできない自律神経系が 今日からしばらくの間 主役となります @自律神経は 全身の各臓器・器官に分布していて 各器官の状況 (内臓の壁の伸展の程度 内容物の化学的性質など)が 自律神経求心路を介して 中枢に伝えられます 心臓が拡張した・収縮したとか 胃や腸に酸性・アルカリ性のものがありますとか そういった内容が伝わるのです そして それらの情報を得て 意思とは関係なしに 自動的に中枢が反応して 自律神経遠心路を介して情報を伝え 器官の働きが調節されます <自律神経と視床下部> 自律神経の働きを 主に規定している中枢は 視床下部です 視床下部からの指令で 自律神経は活動します @視床下部の働き 視床下部は 生体内の環境を安定した状態に保つメカニズム ホメオスタシス・恒常性の維持に 最も重要な役割を果たす部位です 体内を流れている血液中の 物質の濃度などの体の内部からの情報 外部からの刺激を感知した 脊髄 脳幹からの情報 さらに 視床・大脳辺縁系・大脳皮質からも 情報を受け取り それらの情報を統合して 脳の広範な領域 脊髄などに 情報を送ります @視床下部から自律神経へ 情報を送る相手の中には 自律神経遠心路も含まれ 状況に応じて自動的に反応して 自律神経を動かすのです 視床下部の支配下にある自律神経は ホメオスタシス・恒常性の維持に 貢献するとともに 循環 呼吸 消化 代謝 体温調節 食欲の調節などの 生命維持に重要な役割をはたすように 器官の働きを調節します また 視床下部は 種々のホルモン分泌にも関与するので ストレスやショックにより ホルモン分泌に異常が生じると 自律神経の働きが乱れます 更年期の女性に 自律神経失調症が多いのは そうした事情が関与します さらに 情動などの精神的な刺激も 辺縁系から視床下部を介して 自律神経の作用に影響を及ぼし 各器官の働きが変化します このように 私達の意識レベルで 認識されることはないけれど 知らぬ間に 生命維持に大切な働きをしているのが 自律神経なのです
高橋医院