時計遺伝子による代謝調節
中央区・内科・高橋医院の 健康のための栄養学に関する情報 栄養素の代謝に関わる 多くの因子の発現に 日内変動がみられる ことを 前回説明しましたが どうしてそのような現象が 見られるのでしょう? それは 時計遺伝子の影響によるのです 日内変動を司る CLOCK BMAL1などの時計遺伝子は さまざまな遺伝子の発現部位に結合し その発現を制御する転写因子として働くので 転写 翻訳 シグナル伝達など 多様な機能の発現に関わりますが 時計遺伝子が制御する機能のひとつが 代謝関連酵素の発現制御です 具体的に どの時計遺伝子が どんな代謝への関与を行っているか 見ていきましょう <BMAL1> 代表的な時計遺伝子のBMAL1は *脂質代謝 特に脂肪合成に関与し その機能異常が疾病の発症につながる *膵臓でのインスリン分泌の制御を通じ 血糖値をコントロールする *膵臓のβ細胞の数を増やし インスリンの分泌量を増やし その結果として 脂肪を貯めこみやすくする といった作用により 脂質や糖の代謝に関与し こうした機能により 身体の代謝動態を *日中は活動に適した状態 *夜間はエネルギーをため込む状態 にします BMAL1は 主に脂肪細胞などに発現しますが 発現は脂肪細胞分化に伴い上昇し 脂肪細胞分化の亢進 成熟脂肪細胞の機能制御を司ります そして 午前10時から午後4時の間は作用が低下し 午後2時が最少で5% 逆に 夜遅くなるほど活性化され 夜8時から午前2時が最も活発で 午前2時が最大で100% ですから 昼に時間に食べたものは 脂肪になりにくく 夜遅くに食べたものは 全て脂肪になってしまう 夜遅くだと 朝食と同じカロリーを食べても全て脂肪になるので 4倍も太ります BMAL1の日内変動パターンが乱れると インスリン分泌 グルコース放出作用が弱まり 血糖値の変動幅が正常時より大きくなって 糖尿病が悪化しますが メタボの患者さんでは 内臓脂肪でのBMAL1の活性 変動パターンが 低下しています また BMAL1の遺伝子多型(SNP)は 糖尿病 高血圧の発症と関連し BMAL1発現を遺伝子レベルで ノックアウトしたマウスでは *概日リズムに異常が見られる *高脂肪食負荷で 中性脂肪 コレステロールが上昇し 肥満になる *肝臓や骨格筋に異所性脂肪蓄積が生じる *血中インスリン量の低下 分泌不全により 顕著な血糖値上昇を示す といった さまざまな代謝異常が見られ BMAL1が いかに代謝に重要な役割を果たしているか推察できます <CLOCK> CLOCKも 主に脂質代謝を含む多くの代謝経路の制御に関与します 特に PPARα発現の概日リズムを支配しています PPARαは 長鎖脂肪酸がリガンドとして働く核内受容体で 脂肪酸のβ酸化を肝臓や心臓で調節しています また 腸管からの脂肪の吸収がCLOCKにより制御されています 遺伝子多型(SNP)は 肥満リスクと関連し ノックアウトマウスでは *概日リズムに異常が見られ *摂食量増加による肥満 *血中中性脂肪 コレステロール グルコースの緩やかな増加 *脂肪肝 インスリン分泌不全 などが見られます <PER2> 時計遺伝子のなかで 最も疾病との関係が示されているものです 標的となり影響を及ぼす分子は 主にPPARγ2 PPARαで PPARγ2への抑制的作用により 脂肪細胞分化に対して強い影響を与える また 白色脂肪細胞で 褐色脂肪細胞のUCP1や 極長鎖脂肪酸延長酵素のElovl3などの 遺伝子発現を強く誘導し Elovl3の発現増加は 極長鎖飽和脂肪酸ならびに極長鎖モノ不飽和脂肪酸量の上昇を招き 総じて 脂肪酸組成の変化を引き起こして 全身のエネルギー代謝に対して大きな影響を与えます 一方 PPARαには促進的に作用します また PER2の遺伝子多型(SNP)は 肥満者 腹部脂肪の蓄積と強い関連を示し 朝食抜き・ストレス食いパターンや身体活動量にも影響します <CRY> 膵臓におけるインスリン分泌を制御しており 肝臓においては Gタンパク質共役型受容体に結合して活性を抑制し 細胞内cAMP量減少により 糖新生を司る酵素の遺伝子発現が抑制されて 血糖値の低下をひき起こします このように 体内の栄養素代謝は 時計遺伝子の働きにより 日内変動を生じている わけですが なんらかの機序で そのシステムに異常が生じたら どうなってしまうのでしょう? 次回 そのあたりを詳しく説明します
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