薬の効き方の個人差
同じ薬物を服用していても ヒトによって効き目が異なる場合がありますが この原因の多くは 薬物代謝酵素の遺伝子多型(SNP)によるものです SNPについては 既に何回か説明しましたが 同じタンパク質を作るもとになる遺伝子の塩基配列等が ヒトによって微妙に異なるために できてくるタンパク質の量や機能が変化してくる現象で 以前説明したように いわゆる体質を形成する大きな要素のひとつです <薬物代謝酵素の遺伝子多型> @SNPの存在が知られている薬物代謝酵素 *CYP 2C9 2C19 2D6 *NAT2 *UGT *ALDH などがあります こうした薬物代謝酵素のSNPにより さまざまな薬物の代謝速度に個人差が現れ 効き目が異なってくることがあるのです <SNPによる薬物代謝活性の変化> SNPにより薬物代謝に変化を認める場合 その影響は次のように分類されます *RM : rapid metabolizer 代謝活性が過度に亢進している *EM : extensive metabolizer 通常の代謝活性を示す *IM : inter mediate metabolizer EMの約50%の代謝活性しか示さない *PM : poor metabolizer 代謝活性が低くほとんどない RMでは 薬物が過度に代謝されてしまうので 常用量では効き目が弱く IMでは 代謝が弱いので 常用量では効き目が強く出てしまい PMでは 代謝されないので 常用量の投与でも副作用が現れてしまいます <実際の例> @CYP 2D6 このCYPは 感冒薬のPL顆粒 アレルギーの薬剤の抗ヒスタミン剤のゼスラン 鎮咳薬のコデイン など多くの種類の薬物を代謝しますが 2D6*1X2 *2X2は 日本人の1%に認められ RMなので あまり効かない 2D6*10 は 日本人の40%でみられ IMなので そこそこ効く 2D6*3 *4 *5は 日本人の1%未満で PMなので副作用が強く出てしまう可能性がある もしもPL顆粒やゼスランを服用して 眠気などの副作用が強くでたら その方は 2D6のSNPが 2D6*3 *4 *5タイプかもしれません @CYP 2C19 胃潰瘍薬のプロトンポンプ阻害薬 催眠鎮痛薬のジアゼパム 抗てんかん薬のフェニトイン 抗うつ薬のイミプラミン などの代謝に関わりますが SNPと薬物代謝の関連は 2C19 *1/*1だと RMで 日本人では約35% 2C19 *1/*2か*1/*3だと IMで 約49% 2C19 *2/*2 か*2/*3か*3/*3だと PMで 約16% となります 日本人には RMで 薬があまり効かないタイプの人が 3割近くいるということです さて プロトンポンプ阻害薬は 胃潰瘍 逆流性食道炎 ピロリ菌の除菌療法に 用いられますが それらの治療効果と2C19のSNPの関連が 明らかにされています 潰瘍では RMの方は初期段階での治癒が遅く 逆流性食道炎では RMの方は治癒率が低い 除菌治療では やはりRMの方は除菌率が悪く うまく除菌できないことが多い RMのSNPを持っている方は 薬物代謝が速いので効きが悪い そうした方には 投与量を増やす必要があります <将来の薬物治療> このように 薬物代謝酵素のSNPが 薬物の効果に影響を及ぼすことから 将来的には 患者さんに投与する薬物の 代謝に使われるCYPのSNPをあらかじめ解析し その結果に応じて投与量を調整するといった まさに個々人に応じたテーラーメイド医療が 行われるようになるでしょう 現に今でも 上記のCYPのSNPは 検査会社に依頼すれば解析することができます (健康保険扱いで検査することはできず実費扱いになります) 薬を飲んでいるのに どうも効きが悪いとか 副作用がひどい といった場合に その薬物の代謝に関連する分子の遺伝子多型を調べて 対処する時代が もうそこまで来ています
高橋医院