中央区・内科・高橋医院の
食事と健康に関する情報


食欲がどのように制御されているか 
説明してきましたが

当院に来られる
肥満や糖尿病の患者さんたちが 
よく言われるのが

食欲を減らす薬を下さい!

ということです

空のお皿を前に食欲を訴える人

肥満糖尿病の治療は 
ある意味で食欲との戦いですから
その願いは切実です

そこで 食欲制御シリーズの最後に

脳の食欲制御部位に働きかけて食欲を制御する薬

について解説します


このタイプの薬は 
残念ながら日本で使えるものはまだありませんが

アメリカやヨーロッパでは
何種類かの薬剤が実際に臨床の場で使用されていますから
参考までに その現状をご紹介します

<Lorcaserin>

セロトニン受容体作動薬
視床下部のセロトニン受容体活性化を介して
食欲を抑制します

Lorcaserinの錠剤

2012年にアメリカで承認され

*BMIが30以上の方

*糖尿病 高血圧 脂質異常症で
 BMIが27以上の方

が 治療の適応になります


<Phentermine>

モノアミン賦活剤
GABA受容体拮抗作用を有する 
抗てんかん薬のトピラマートとの合剤の形で
2012年にアメリカで承認されています

Phentermineの錠剤

体重が5%減少できる確率は
70%と報告されています


<Bupropion>

ノルアドレナリン ドパミンの
再取り込み阻害薬
抗うつ剤のオピオイド受容体拮抗薬
ナルトレキソンとの合剤の形で
2014年にアメリカで承認されました

Bupropionのパッケージ

3.2~5.2%の体重減少効果を認め
体重が5%減少できる確率は
50%と報告されています


さらに これらに加えて

*ノルアドレナリン ドパミンの
 再取り込み阻害作用を有する薬

*POMCニューロンを活性化する 
 αMSH受容体を刺激する薬

などが 開発されています

@副作用リスクが大きい

こうした
食欲制御に関わる脳内の神経伝達物質を
活性化または抑制する作用機序の薬には
大きな副作用のリスクがあります

というのも

それらの神経伝達物質は 
脳内で食欲の制御だけに関わるのでなく
他のさまざまな機能にも関わっているため

開発された薬剤が 
食欲制御以外の多様な機能を有し
予期せぬ副作用を誘引する可能性があり
抑うつや自殺などの重大な副作用が
起こりかねません

そのため 
開発した薬の安全性を確かめる過程が
従来の薬に比べてはるかに大変です


そこで 
異なる作用機序を有する複数の薬剤の合剤が
開発されています

合剤化により 
各薬剤の容量が減らせるので 
副作用を減少できますし
薬効の相乗効果も期待できます


一方 
食欲抑制作用を有する消化管ホルモン
食欲制御や肥満の薬剤として用いる試みが 
盛んに行われています

<GLP-1アナログ>

たとえば 前回ご説明したように
GLP-1は食欲抑制作用を有していますが

その受容体を刺激する
GLP-1アナログ(誘導体)のLiraglutide

アメリカでは 
糖尿病治療薬としてだけでなく
肥満症治療薬としても用いられて 
FDAのお墨付きも得ています

FDAが発行したLiraglutideの承認証

糖尿病に投与される量の
約3倍量が投与されますが
4~6%の体重減少効果が報告されています

Liraglutideによる減量効果を示すグラフ

ちなみに 当院でも
GLP-1アナログを用いて治療している
糖尿病の患者さんが沢山おられますが

通常量の投与でも 
多くの方々が食欲の減少を自覚され 
体重も減る方が多い

で 糖尿病のコントロールが良くなって投与を中断すると
体重減少が滞る方もおられて

GLP-1アナログの食欲制御 体重減少効果を 
リアルに実感しています


<消化管ホルモン製剤>

さて 既にご説明したように

消化管ホルモンの多くは
食欲抑制作用を有し
実際に腸脳相関系で
脳に作用している生理活性物質なので

上述した薬剤とは異なり 
重大な副作用のリスクも少なく

消化管ホルモンの誘導体 
その受容体刺激剤は
食欲抑制薬 肥満症の治療薬として注目されています

特に 肥満症の患者さんでは

*通常みられるグレリンの食後の低下が減弱しているので
 その受容体GSH-Rの阻害剤を投与して
 グレリンの働きを抑え込もうとするとする試み

*PYYの血中レベルが低下しているので
 PYYの誘導体を投与して働きを高めようとする試み

などが 有力な候補として検討がすすめられています

さまざまな消化管ホルモンの食欲制御効果をまとめた表

消化管ホルモンの多くは

*血中半減期が短かったり

*経口投与すると分解されてしまうので
 静脈注射しないと効果が出ない

といった
使い勝手の良い薬剤として使用するには 
克服すべき問題もありますが

分解されにくい誘導体を作製したり
鼻粘膜から血中に直接移行する剤形にする
といった工夫により
近い将来 
なんとか食欲を上手に抑制できる薬ができて

食欲との闘いに悩める患者さんたちの
食欲制御という切なる願いがかなうことを 
期待したいと思います

高橋医院