新しいタイプの睡眠薬
前回ご紹介した
既に長きに渡り使用されてきた
ベンゾジアゼピン系 非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬に加え
最近は新たな作用機序の睡眠薬が
臨床使用されるようになりました
<メラトニン>
2010年から使用されているのが
メラトニン受容体作動薬の
ラメルテオン(商品名・ロゼレム)です
メラトニンは 既に説明したように
体内時計のリズムを整えるのに
重要な働きをする物質で
朝 太陽の光を浴びると
分泌が抑制され
その15時間後くらい
夜になると再び分泌されるようになり
ヒトを睡眠に誘います
メラトニンの分泌は
糖尿病やストレスで減少し
高齢者では
朝夕の分泌の多寡のメリハリが少なくなり
分泌量そのものも
若年者の半分程度に落ち込んでしまいます
そこで メラトニンと同じように
メラトニン受容体に働きかけて
睡眠を誘導する物質が
薬剤として使われるようになりました
メラトニン受容体には
M1 M2の2種類があり
M1は催眠作用
M2は体内時計のリズム調節作用
がありますが
ロゼレムは
その両方に作用して効果を発揮します
生体内に存在し
睡眠を誘導しているメラトニンと
同じ作用を発揮するので
安全性が高く
自然な深い眠りが誘導され
依存症や離脱症状も認めません
ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系の薬は
GABAの作用増強により
脳全体を強制的に休ませる作用機序ですから
不自然で浅い眠りになりがちでしたが
ロゼレムは
自然や睡眠が誘導できるのが
いちばんのメリットで
入眠障害を訴える不眠症の患者さんに
使用されることが多くなってきました
作用発現に1時間ほどかかるので
就寝1~2時間前に投与すると効果的です
また 作用が弱いので
2週間ほど連用しないと効果が出てきません
ですから
ベンゾジアゼピン系などの
強くて即効性がある効果になれている患者さんには
最初は満足していただけないのが
唯一の欠点と言えます
時間をかけてゆっくりと
自然な睡眠を取り戻していくという
おおらかな気持ちで服用していただきたい薬です
<オレキシン受容体拮抗薬>
2014年から使用されるようになったのが
オレキシン受容体拮抗薬の
スポレキサント(商品名・ベルソムラ)です
オレキシンは 既に説明したように
覚醒を維持させる物質ですが
ベルソムラは
2種類存在するオレキシンの受容体
OX1R OX2Rに働きかけ
オレキシンが結合できないようにして
オレキシンの作用を弱めます
こうして
オレキシンの覚醒維持作用がなくなると
覚醒・睡眠のシーソーが睡眠側に振られ
睡眠が誘導されます
効果は
ベンゾジアゼピン系 非ベンゾジアゼピン系と比べて
遜色がなく
即効性があり
服用1日目から充分な効果が得られます
また
入眠効果だけでなく
睡眠維持効果がさらに強いのが特徴で
入眠障害型の患者さんにも
中途・早朝覚醒型の患者さんにも
効果が期待できます
さらに ロゼレムと同様
自然で深い睡眠を誘導するので
依存症や離脱症状は認めず
今のところは
重篤な副作用も報告されていません
そうした特徴から
発売後5年も経過していませんが
既に処方量は睡眠薬のベスト3に入っているとの話も
聞きました
ちなみに
今年2月の某国営放送の某健康関連番組で
ベルソムラは糖尿病の特効薬であるような
紹介の仕方をされて
ちょっとケチがついてしまいましたが?(笑)
糖尿病は
不眠があるとコントロールが悪くなるので
自然な睡眠が誘導され依存性が少ないベルソムラが
不眠に悩む糖尿病患者さんへの効果が期待できるのは
決して間違いではありません
<新しいタイプへの切り換えが出来るか?>
新たな作用機序の睡眠薬の登場により
ベンゾジアゼピン系
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を
長年使用して依存性などが問題になっている場合に
ベルソムラやロゼレムへの変更が
選択肢として使えるようになりました
ただ ベンゾジアゼピン系には
独特のはっきりと眠くなる実感や
独特の酩酊感があり
(これは 不自然な眠りの特徴でもあるのですが)
ベルソムラやロゼレムに変えると
それらがなくなり満足できない
と訴えられる患者さんも少なくありません
ダメ! と言われる患者さんも少なくなくて
そのあたりが
今後 解決していくべき点と思われます
ということで
不眠症の薬物治療が
ここ10年あまりで大きく変貌したことを
イメージしていただけたでしょうか?
書き手も
新たに睡眠薬を処方する患者さんには
ベルソムラやロゼレムを積極的に使いますし
上述したように
ベンゾジアゼピン系を使ってこられた患者さんには
依存や耐性を避けるために
切り換えをお勧めしています
高橋医院