ヒトの受精卵へのゲノム編集については
国際的なルールを作る必要性がある

と多方面から意見が上がっています

また 科学者たちが社会の懸念に答えないと
この技術に必要以上の規制がかかる可能性もあります

<学会 政府などからの提言>

そこで 2015年12月にダウドナ博士が呼びかけ
ゲノム編集研究で世界をリードする
*アメリカ科学アカデミー 
*イギリス王立協会
*中国科学院
が共同主催して ヒトゲノム編集国際会議が行われました

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世界のゲノム編集研究者のみならず
倫理学者 法律専門家 人権擁護団体関係者なども
参加したこの会議では

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受精卵のゲノム編集に関して

基礎研究は
法的・倫理的ルールに基づいていればOKで
行われるべきものだが

臨床研究は 禁止する

との提案を出しました

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受精卵のゲノム編集は

*有害なことが起きるか予測できない

*元に戻せないので 次世代に影響してしまうリスクがある

*安全性 有効性の確認が まだ十分ではない

*社会的コンセンサスが まだ熟成していない

といった理由からです

第2回目のヒトゲノム編集国際会議は
今年11月末 つい先日に香港で行われました

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日本では
内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 生命倫理専門調査会が

受精卵のゲノム編集に関して

*基礎研究は 容認される場合がある

*臨床応用は 容認できない

と提言しています

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基礎研究であっても 病気の治療に関連しない
美容やデザイナーベビーといった
特定の体の機能の増強を目的とした研究は
容認できないとしています

遺伝子は 過去の人類からの貴重な遺産であることを考えると
現在の社会において生活する上での不都合を理由に
次世代に伝えないという選択をするより
その不都合を受け止められる社会を作るべきだ
という考え方もある

と その報告書には記されてあります

また学術会議は

ヒトの受精胚を用いた臨床応用を想定した
ゲノム編集を伴う基礎研究は
控えるべきである

と提言しています

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<ヒト受精卵へのゲノム編集研究の現状>

こうした
受精卵へのゲノム編集に警鐘が鳴らされる前の2015年2月

中国の中山大(広東省)のチームが
ヒト受精卵を用いてゲノム編集を試み
論文として報告しました

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βサラセミアという遺伝性の血液の病気の
責任遺伝子をターゲットにした編集で
受精卵は正常に発生できないものを用いました

その結果
86個の受精卵のうち 28個で修復でき
一方 1/4程度で目的外の遺伝子操作も起きました

中国チームは
「成育できない受精卵を使うことで倫理的な問題を回避した」
としていますが

この研究が 各国政府や学会が 
当面の間 ゲノム編集を臨床目的で使わないよう求める声明を出す
大きな契機となりました

国際幹細胞学会 遺伝子細胞治療学会 アメリカのNIHなどが
相次いで そうした声明を出したのです

しかし その後も
受精卵を用いたゲノム編集が
中国やアメリカから相次いで報告されています

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2016年2月には イギリスのフランシス・クリック研究所が
不妊治療を目的とした
正常な受精卵を用いたゲノム編集研究の承認を得ました

2016年4月には 広東医科大学が
受精卵を用い HIVに感染しないゲノム編集を行い成果を得ました

2017年8月には 米オレゴン健康科学大学と韓国などの研究所が
受精卵のゲノム編集によって
肥大型心筋症心につながる遺伝子の突然変異を修復し
疾患が子孫に遺伝しないようにすることに成功しています

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<中国からの衝撃的なレポート>

ちょうど先週
ショッキングなニュースが世界中を駆け巡りました

中国の医師ではない研究者が
ゲノム編集を施した受精卵を母胎に戻し
双子の女の子を出産させたというのです

その研究者は 前回紹介した
HIV治療のための受精卵のCCR5遺伝子切断を行ったようです

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タイミングよく開催されていた上述の香港の国際会議で
その研究者は発表を行い
自ら行ったことの正当性をしきりに強調しましたが

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会場からも さまざまな関連学会からも 中国政府からも
厳しい非難の声が上がっています

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ある研究者は
「彼は功名心で行動したとしか思えない」と語っています

またMITテクノロジーレビューという
最先端の科学の動向をレポートしているサイトでは

この研究者を知る人物は
科学に対する彼の野心は
中国全体を覆う社会的な態度と一致していると語り

その態度は 共同社会におけるより大きな利益が
個別の倫理はもとより国際ガイドラインにさえ優先する
という考えも含んでいる

という編集者によるコメントが出されました

CRISPRの生みの親のダナウド博士は
後述するように
この技術が社会に適切に受け入れられるよう奮闘されていますが

このニュースに接して
「恐怖と驚きを禁じ得ない」と語られたそうです

また
CRISPRの人への応用を世界で初めて行った中国人のチャン博士は

今回の実験を取り巻く不透明さをも深く憂慮しています

遺伝子編集であれそれ以外のものであれ
あらゆる医療の進歩で
特に無防備な人々の集団に影響を与えるものは
厳重かつ思慮深くテストされ
患者や医師 科学者 その他のコミュニティの構成員と
公の場で議論され
公正な方法で実施されなければなりません

「提案された適用の適正さについての幅広い社会的なコンセンサス」
がなければ
生殖細胞系を編集するのは無責任であろうというのが
現在のコンセンサスです

とコメントし 研究の即時停止を呼びかけました

香港での国際会議は この研究への深い憂慮を示して幕を閉じたようです

書き手もこのニュースを聞いてびっくりしましたが

でも やっぱり中国から出たかと思い
こういう危惧していたことが実際に起きてしまう世の中なのだな
と痛感しました

残念なことに
倫理観を持たない人は世の中に必ず存在しますし
哀しいかな 科学者の中にも倫理観が欠如した人はいるのです 

だからこそ これから紹介するような
社会全体でのコンセンサス造りが重要なのです


<一般社会人が参加したコンセンサス作りの重要性>

ゲノム編集は 非常に秀でた技術ですが
上述したような大きな危険性も内包しているため

必要性が低いことについて
単に可能だからという理由で行われると
社会は不安を抱いてしまいます

大きな発見であればあるほど 社会は不安を抱くのです

ですから ゲノム編集という新たな技術を得た時代の
新しい価値観 倫理観を
科学者だけでなく 一般の市民も参加して
共同で生み出して
それを社会で共有する必要性が提唱されています

CRISPR/Cas9の生みの親のダウドナ博士も
革新的な新たな技術の発見について語った自著の中で
(とても面白いのでご一読をお勧めします 文芸春秋版)

科学とは関係ない人たちこそが
ゲノム編集に関する倫理観の形成に加わるべきだと
熱く述べています

はたして そのような動きが社会に生まれてくるでしょうか?

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書き手は 日本の提言で

遺伝子は 過去の人類からの貴重な遺産であることを考えると
現在の社会において生活する上での不都合を理由に
次世代に伝えないという選択をするより
その不都合を受け止められる社会を作るべきだ
という考え方もある

と記されたことに とても感銘と共感を覚えました

読み手の皆さんは ヒトの受精卵のゲノム編集について
どのように思われますか?

このブログを読まれたことを機会に ちょっと考えてみませんか?

 

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