骨と 糖や脂質の代謝系 が
相互に影響を及ぼし合うなんて

全く世の中は
新しい時代に入ったものです!


骨が産生する様々なホルモンが示す多彩な作用をまとめた図


<骨の代謝に 糖や脂肪細胞が関与する>

骨の代謝には
感覚神経系 自律神経系をはじめ
他臓器からのさまざまな情報が影響します

なかでも興味深いのは

インスリンや
脂肪細胞が産生するレプチン アディポネクチンなどの
糖や脂質の代謝に関与する物質が
骨の代謝に影響を及ぼしていることです


@インスリン

インスリンは
骨芽細胞でのOPG(オステオプロテグリン)産生を
抑制します

インスリンの骨芽細胞への作用を解説した図
OPGは RANKLを抑制するので
OPGの抑制によりRANKLがよく働いて 
破骨細胞の骨吸収を促進します


@レプチン

交感神経の活性化により
骨形成を抑制 骨吸収を促進し 
骨量を減少させます

レプチンの骨量減少作用の解説図

また 骨芽細胞のオステオカルシン産生を阻害します

レプチンのオステオカルシン産生阻害の解説図


オステオカルシンは後述するように
糖や脂質の代謝を改善する働きがありますから
レプチンによるオステオカルシン抑制に
どのような生理的意義があるのか 興味深いです


@アディポネクチン

骨芽細胞における
RANKL発現促進 OPG発現の抑制を介して
破骨細胞活性を促進するとの報告があり

アデイポネクチンの破骨細胞への作用をまとめた図

実際にヒトでは
血中アディポネクチンと骨密度との間には
有意な負の相関 

骨代謝マーカーとは有意な正相関

があります


また
アディポネクチンと既存椎体骨骨折との間にも
正の相関があり

アディポネクチン高値は
骨密度低下 骨代謝回転亢進を引き起こし
椎体骨折の原因となりうる
推測されています


<糖代謝 脂質代謝に骨ホルモンが影響する>

骨が産生するオステオカルシン RANKL糖・脂質代謝に関与
そこにはインスリンも絡んでいます

@インスリン

インスリンは骨芽細胞に作用して
オステオカルシンの活性化 産生を促進します

そして オステオカルシンは
膵臓のβ細胞のインスリン産生を活性化します

インスリンとオステオカルシンの相互作用の解説図


骨芽細胞へのインスリン作用が低下すると
この活性化が起こらないので
耐糖能低下が生じます


また 高脂肪食により 
骨組織でのインスリン抵抗性が生じると
糖尿病が悪化すると報告されています


こうした
オステオカルシンを介したインスリンの産生増強
血糖上昇にともなう短期的な血糖調節とは異なる
長期的な時間をかけた血糖調節機構としての存在意義
があるのでは?
との考察もあるようです


@オステオカルシン

上述したように オステオカルシンは
膵臓でのβ細胞の増殖に関わり
インスリン合成 分泌を活性化増加させます

また 小腸でのGLP-1分泌を増加させます

こうした働きにより
血糖値や肝臓 筋肉でのインスリン抵抗性は
改善します

オステオカルシンとGLP-1の相互作用の解説図

オステオカルシンは 脂肪代謝にも関与します

脂肪からのアディポネクチン産生を増やし

オステオカルシンのGLP-1 アデイポネクチン産生増強作用を示した図

褐色脂肪細胞での
PGC1 UCP1の遺伝子発現量を増やし
内臓脂肪蓄積を抑制する可能性があります


オステオカルシンの脂肪を含む全身のさまざまな臓器への作用をまとめた図

このようにオステオカルシンは
糖尿病や脂肪蓄積を改善しますが

糖尿病による高血糖の状態では
骨芽細胞の分化障害 機能低下が誘導されるため
オステオカルシンの作用を抑制して
糖尿病をさらに悪化させるという
ネガティブループが形成される可能性もあります

このあたりはとても興味深いので
今後の研究の進歩に期待したいものです

オステオカルシンの産生を増強させて
糖尿病や脂質異常症を改善させる
新たな治療法が開発されるかもしれません


@RANKL

インスリン抵抗性や膵β細胞の機能不全の原因である
転写因子NF-κBを介して誘導される炎症性シグナル
RANKLシグナルが関与することが
最近明らかになりました


RANKLのNFkBを介した炎症誘導の解説図
血中可溶性RANKL濃度高値が
2型糖尿病発症の有意で独立したリスク予測因子
であることも報告されています

このように RANKLは
糖尿病の発症・進展に関わっている可能性があります



また 骨が産生するホルモン様物質は
全身の脂肪の適切な保持に関与していて

脳と肝臓と協調して
皮下脂肪 内臓脂肪 肝臓脂肪の間の
脂肪の行き来のバランスをとっている
と推察されています

面白いですね!


こうしたことから

*骨の形成に糖尿病や脂質異常症が絡み

*糖尿病や脂質異常症の増悪や改善に
 骨が産生するホルモンが絡む

といった相互作用があることが明らかとなっています

これからは
生活習慣病の管理における運動の大切さも
骨が産生するホルモンや
筋肉が産生するマイオカイン
のレベルで語られていくことになるのでしょう

ホント 世の中の景色は変わったものです!

この方面の今後の研究の進展に目が離せません!(笑)

高橋医院