痰はなぜ生じるか
この時期は 風邪をひいて来院される患者さんが多く 咳と痰がつらいと言われる方が 少なくありません 咳と痰は ともに肺の病気で高頻度に見られる症状です 咳については以前に説明しましたから 今回は 痰について解説します <痰とは何か?> 痰は 喉の奥に存在する肺(下気道)で 過剰に分泌された分泌物が 喀出されたものです 分泌物が過剰に溜まると 咳受容体を刺激して咳嗽反射が起き 咳により喀痰として排出されるのです <生理的な下気道からの分泌物> 下気道は 1日に約100mlの分泌物を分泌し それはさまざまな働きをしています @恒常性を保つ 気道の表面の湿度を保ち 潤滑化し 抗酸化作用も示します @バリア機能 気道に侵入してきた異物 微生物の 補足 侵入阻止を行っています @生体防御機能 *IgAという抗体 *リゾチーム ラクトフェリンなどの抗菌物質 *プロテアーゼという タンパクを分解する酵素を阻害する物質 などを含有していて 生体防御に関与しています @分泌物を産生する細胞 気道粘膜の下の方に存在している粘膜下線の *漿液細胞(主に水を分泌)と *粘液細胞(主にムチンを分泌) 粘膜直下に存在する *杯細胞(主にムチンを分泌) です これらの分泌は 主に副交感神経の支配を受けています @分泌物の主たる成分 気道ムチンと呼ばれる 巨大な糖タンパク質で その50~90%は炭水化物です またムチン以外に *抗菌活性物質(デイフェンシン リゾチーム IgA) *免疫調節物質(グロブリン サイトカイン ケモカイン) *防御分子(トレフォイルタンパク ヘレグリン) など 60種類以上の 主に生体防御に関わる物質が含まれています これらの分泌物は 生理的な状態では 粘膜に存在する線毛の運動により 気道の上の方(喉頭)に向って送りだされていて 生体防御に重要な働きをしています <病的な気道分泌産生> 外界から過剰に微生物が侵入してきたリ 気道に炎症や腫瘍が生じると 分泌物が過剰に産生 分泌されるようになります 特に粘液産生細胞からの ムチンの産生 分泌が強まります ムチンの産生 分泌を亢進させる刺激としては *さまざまな種類の細菌 ウイルス *タバコの煙 排気ガス *過酸化水素 *サイトカイン (IL-1β IL-4 IL-13など) *成長因子 ホルモン (EGF TGFα レチノイン酸 甲状腺ホルモンなど) *タンパク質分解酵素 (エラスターゼ トリプシン カリクレインなど) が挙げられます 分泌されるムチンに主なものは 粘液細胞から分泌されるMUC5Bで 肺胞マクロファージの成熟 IL-23産生に関与し 気道の感染防御に中心的に関わります 一方 杯細胞からはMUC5ACが分泌されますが こちらは 気道過敏性の獲得に関与し 喘息病態の発現に関わっているとされています ムチンが過剰に分泌されると ムチンの糖鎖が修飾され フコースの量が増加します こうして ムチンの量の増大 糖鎖修飾により 分泌物の粘度が増加して 線毛運動では排出されにくくなります 線毛が頑張って 気道の上の方に押し上げてくれたり 咳嗽反射により咳が出て 喀出してくれればいいですが それらが上手くいかないと 分泌物が下気道に貯まってしまい 気道閉塞や感染の助長の原因に なってしまいます
高橋医院