ウイルスの突然変異
ウイルス 特にRNAウイルスは よく突然変異を起こします <突然変異> ウイルスの突然変異は さまざまな機序により生じます @遺伝子複製のエラーによる突然変異 遺伝子が複製する際に なんらかの原因によりエラーが起こり得ますが DNAウイルスでは エラーに対する修復機構があるので エラーは起こりにくいけれど RNAウイルスは修復機構がないので 変異をともなう複製が起こり その結果として 突然変異が頻繁に生じます @同時感染した複数のウイルスの 組合せの変化による突然変異 ブタに カモに感染するインフルエンザウイルス ヒトに感染するインフルエンザウイルス が同時に感染すると 細胞の中で 両者を構成する分節化RNAの交換が生じて 新しい分節の組合せを有する 全く新しいインフルエンザウイルスが 生まれます @抗ウイルス薬の影響 抗ウイルス薬は ウイルスを殺さず増殖を抑えるだけなので 体内に潜むウイルスは 抗ウイルス薬投与下で圧力を受けて 突然変異を起こして薬剤耐性になります このような 複数の突然変異メカニズムにより ウイルスは短期間のうちに 次々と変異を起こしていきます ウイルスは突然変異により 短期的には 感染力 病原性が強くなる傾向があります しかし長期的には 病原性は低下して 宿主と共存するように変異することもあります 宿主が死に絶えれば ウイルスも存在できなくなるからです 但しこれは 合目的論的なバイアスがかかった 推察かもしれません <インフルエンザウイルス> 突然変異を起こす代表的なウイルスが インフルエンザウイルスです 今は新型コロナウイルスが 大問題になっていますが 将来的にはインフルエンザウイルスの 突然変異によるパンデミックも 心配すべき問題です そこで インフルエンザウイルスについて解説します @インフルエンザウイルスは人畜共通感染症 インフルエンザウイルスは ヒト以外の多くの種類の動物にも感染して ニワトリには病気を起こさせる 人畜共通感染症ウイルスです カモ アヒルなどの水鳥 ニワトリ ブタ ウシ ウマ イヌ ネコ クジラ アザラシ オットセイ などのさまざまな動物に広く感染します @構造 インフルエンザウイルスはエンベロープを有し エンベロープ上には ・HA ヘマグルチニン ・NA ノイラミニダーゼ の2種類のタンパクが発現していて これらが抗原として働きます *ヘマグルチニン インフルエンザウイルスは ヘマグルチニンにより 上気道 消化管の上皮細胞に発現するシアル酸に 吸着・結合するので 細胞に感染できます また 細胞内に侵入後に ヘマグルチニンは 上気道 消化管の上皮細胞が有する タンパク質分解酵素により ふたつのパーツに分かれて開裂します この開裂が起きないと ウイルスが細胞内に侵入したあとに 脱殻できないので RNAが細胞内に放出されず 複製ができません 逆に 上気道 消化管以外の細胞には ヘマグルチニンを分解する タンパク質分解酵素がないので インフルエンザウイルスは増殖できません ヘマグルチニンには 16種類の亜型があります *ノイラミニダーゼ ノイラミン(シアル酸)を分解する酵素です 細胞内で増殖したインフルエンザウイルスは 細胞外に出芽しますが 細胞表面のノイラミンと結合しているので 細胞から遊離できません その結合を ノイラミニダーゼが切断するので 出芽したインフルエンザウイルスは遊離し フリーとなって 次の細胞に感染できるようになります ノイラミニダーゼには 9種類の亜型があります また上述したように ヘマグルチニン ノイラミニダーゼは インフルエンザウイルスの抗原として働くので それぞれの遺伝子に突然変異が起こると 抗原の形が変化して 抗体が認識できなくなりますし ワクチンも効かなくなります *RNA インフルエンザウイルスのRNAは 8本に分かれて分節化して存在しており 全部で11種類のタンパク質を作ります
高橋医院