ウイルスがヒトに感染して
起こる病気について説明します

<ウイルス感染で起こる病気>

ウイルスでおこる病気で最もポピュラーなのは
呼吸器系や消化器系の感染症ですが

ウイルスの種類によっては
がん 慢性疾患 多発性硬化症などの神経疾患
原因になります


また最近は 
ウイルスは心の病にも関与することが報告され

母親が妊娠中にインフルエンザに感染すると
子供は成長後に統合失調症を発症しやすいことが
明らかにされましたし

統合失調症 躁うつ病 自閉症などの一部
ウイルス感染が原因と考えられています


<ウイルスには標的臓器がある>

ウイルスの種類によって
感染しやすい臓器が異なります

ウイルスの細胞への吸着の解説で説明したように
ウイルスが細胞上の
どのようなレセプターと結合するかで
「鍵と鍵穴」の関係で 
標的臓器が規定されます


ウイルスの細胞への吸着を説明する図

@呼吸器系に感染
ライノ コロナ インフルエンザ

@肝臓に感染 
肝炎ウイルス

@腸管系に感染
ノロ ポリオ

皮膚 神経系 生殖器系 泌尿器系などに
選択的に感染するウイルスもあります


ちなみに新型コロナウイルスは
細胞上のACE2に結合して感染します

新型コロナウイルスのACE2への結合を示す図

ですが
肺の細胞のACE2発現はそれほど高くなく

肺の細胞のACE2発現の程度を示す図

どうして高率に肺炎を起こすかは
ACE2だけでは説明できていません


<風邪を起こすウイルス>

上気道の粘膜細胞や 
肺の肺胞上皮に感染して増殖します

風邪を起こすウイルスをまとめた表

@ライノウイルス
RNAウイルスのピコルナウイルスで
ノンエンベロープのプラス鎖RNAです

@コロナウイルス
RNAウイルスで
SARS MARS 
いま話題の新型コロナウイルスが含まれます

@アデノウイルス
DNAウイルスです


<胃腸炎を起こすウイルス>

代表的なのがノロウイルス
大人の胃腸炎 食中毒の原因の9割を占めます

胃腸炎を起こすウイルスをまとめた表

ノンエンベロープの
プラス鎖RNAのRNAウイルスで

ノンエンベロープなので アルコール消毒は無効で

ノンエンベロープにはアルコール消毒は無効なことを示す図

次亜塩素酸ソーダによる消毒が必要です

次亜塩素酸ソーダによる消毒の必要性を説明する図


感染患者の嘔吐物などからの経口感染し
十二指腸 空腸の絨毛部位の上皮細胞に感染して
ウイルスの複製が起こり

消化管の細胞が感染して傷害されるので
下痢などの消化器症状が起こります


<ウイルスが病気を起こさせる機序>

感染した細胞内でのウイルス増殖により
細胞の機能が低下するとともに
細胞破壊や組織全体の破壊を引き起こします

感染した細胞内でウイルス増殖する様子
ウイルス感染細胞に対する宿主の免疫反応が
細胞破壊を起こすこともあります

神経細胞に感染した日本脳炎ウイルスに対する
免疫応答としての脳炎や
肝細胞に感染したB型肝炎ウイルスに対する
免疫応答としての肝炎が
その代表例です

また 
宿主の細胞のゲノムに入りこんだ
ウイルス遺伝子が
がんを発症させることもあります


<潜伏感染>

ウイルスのなかには
長期間にわたり体内に潜伏する 
生存に長けたウイルスがあります

単純ヘルペスウイルス

最初に感染したあとに
宿主の免疫反応が及ばない
脊髄近くの神経節の神経細胞に
長期間潜伏していて

潜伏している間は増殖せず 
悪さもしません

単純ヘルペスウイルスの潜伏を示す図

しかし
ストレス 紫外線 月経 ホルモン異常などで
宿主の免疫機能が低下すると
潜伏していたウイルスが活性化して増殖し
口唇や性器周辺に症状を出すことがあります

単純ヘルペスウイルスの再発を示す図


@水痘ウイルス

最初に感染して水ぼうそうを発症させたあと
全身の感覚神経節に長期間潜伏しています

数十年後に 
加齢により免疫力が低下すると
帯状疱疹として再発します

帯状疱疹の再発を示す図

感覚神経に沿った各所の皮膚で増殖し
顔 脇腹 背中などに潰瘍性病変を形成します


<慢性感染>

感染しても 何も症状を表さず
静かに慢性的に感染しているウイルスもあります

慢性感染について説明する図

C型肝炎ウイルスが代表例で
感染しても最初は無症状で肝機能も正常です

しかしウイルスは
肝細胞内で継続して増え続け
長い年月を経た後に肝炎を発症します

書き手が医師になってすぐに
C型肝炎ウイルスが同定されました

C型慢性肝炎には有効な治療法がなく
患者さんたちはとても苦労されましたが
今は抗ウイルス薬を8週間飲めば
大抵はC型肝炎ウイルスを
駆除することができます

時代は変わり 
書き手も年をとりました(苦笑)
高橋医院