女優なエトワール
今回 パリ・オペラ座バレエ団の公演を 見たいと思ったのは 去年の夏にTVで放映された バレエ団のトップダンサーたちの 日々の練習風景を描いた番組で この方のインタビューを見て 感銘を受けたからです バレエ団の名花 エトワールの ドロテ・ジルベールさん 普段のレッスンの様子を取材した 番組内のインタビューで 彼女は 「舞台を観る観客に レッスンを髣髴させてはダメ」 「踊り手の息遣いを感じさせたら プロとして失格」 と さも当たり前のことのように 淡々と笑みを浮かべながら語るのですよ きゃー 格好良い! これぞプロ! それに もの凄い美人というわけでもないのですが(失礼!) その表情やたたずまいには 観る者を妙にとても強く惹きつける なんとも言えない魅力があります! 書き手は感銘して 彼女の踊りが見たいと思ったわけです そんな彼女が薄幸の女性を演じたのが ジゼル この演目は 以前にもご紹介しましたが 村娘のジゼルが 王子アルブレヒトにたぶらかされて(?) 失意と狂気のうちに命を落とすまでを描く第1幕
ジゼルと同じような境遇から 精霊となって集った乙女たちが 若い男性を踊り狂わせる夜の森で 懺悔をしに来たアルブレヒトを 思い悩みながらも 健気に守るジゼルを描く第2幕 から構成されますが 第1幕で ジゼルが狂気に至る過程での ジルベールさんの 踊りというか 演技というか とにかく鬼気迫るものがあって凄かった! バレエダンサーとしての技術が 秀でて安定していて まさに レッスンを髣髴させない 息遣いを感じさせないもので それだけでも充分に凄いのですが 特筆すべきは 彼女の表情や体全体で示す表現力です びっくりしましたし 圧倒されました! これは ボリショイにも ノイマイヤーにもない これまで見たバレエで経験したことがないような 見事なものでした 思わず惹きこまれましたよ! 第2幕では 彼女は逆に あまり表情を前面に出さず 鍛え上げたバレエのテクニックで魅了しましたし 一糸乱れず優雅に踊る群舞も見事で パリ・オペラ座バレエ団の底力を まざまざと見せつけられたような気がしました それにしても ジルベールさんの表現力は凄かった バレエダンサーというより まさに女優さんのようでした 今回は見られませんでしたが 彼女はオネーギンでも その表現力を十二分に披露したようです
聞くところによると 彼女は実際に女優としてのトレーニングを 積んだこともあるそうで 納得ですが 天賦の才も大きいのかなと思いました それにしても いやー ホントにびっくりしました 終演後のカーテンコールは10分以上 客席は全員総立ちで 「こんなときに来てくれてありがとう!」 という気持ちを舞台に伝えているようでした 興奮冷めやらぬ帰り道 糖尿病専門医さんは 感動しながらも 「このストーリーは いけないよね!」 と言われます あれ 以前に英国ロイヤルバレエの ジゼルを見たときも 帰り道にそんなことを言っていたよね? えっ そうだっけ? と彼女は忘れておられましたが ホラ ここにちゃんと書いてありますよ! 糖尿病専門医さんの固い信念は 変わりませんね(笑) そうそう 後ろの席に座っていた いかにもバレエをやっていそうな スタイルの良い女性たちが ジルベールさんを 「彼女の足の甲は 品があって表現力も見事ね」 と評されていたのが聞こえてきました そうか プロは顔の表情でなく 足の甲の表現力を見るのですね! まだまだ勉強が足りません(笑)
高橋医院