新型コロナウイルスの抗体検査
特にIgG抗体の検出には
個人の病気の診断を超えた社会的意義があります


<既感染者の同定の社会的意義>

検査した人が
新型コロナウイルスに対する
IgG抗体を有していれば

その人は既感染者で
人にうつすリスクはないので
(厳密にはPCR検査で確認すべきですが)
通常の生活をおくれる証明になります

抗体検査キットで陽性であることを示す人

特に 医師 看護師 医療従事者の場合は
IgG抗体の検査をすれば
新型コロナウイルスに既感染か知ることができ

抗体が陽性ならば
自分 患者 同僚 家族などへの
感染を心配することなく
治療に専念できます

治療する医療スタッフ


<社会的サーベイランスとしての意義>

新型コロナウイルスの感染が 
社会でどれだけ広がっているか

実際の致死率は 何パーセントなのか

感染拡大阻止の対策は
思惑通り機能しているか

多くの人の抗体検査を行うことで
こうした疑問の答えを見出せる可能性があります

また 
無症状で知らぬ間に感染していた人が
どれくらい存在しているか
明らかにすることができます

抗体検査を行っている様子


<世界各国での抗体検査への取り組み>

@IgG抗体陽性の人に期待されること

新型コロナウイルス感染は軽症者も多く
自分で気づかぬうちに感染 治癒して
IgG抗体を持っている人が多数いると推測されます

こうした人たちは 
免疫を持っているので感染のリスクがなく
外出制限中でも働くことができるので
経済活動や医療の現場の状況改善につながります

特に
外出自粛緩和による経済活動の再開
院内感染防御防が必須の医療現場での人員確保
などに
IgG抗体検査の結果を用いることが 
期待されています

そうした観点から
日本でも医療従事者の抗体検査が
計画されているようです


@各国の抗体検査への取り組み

上述した思惑をもとに

アメリカでは
全米規模での検査体制を構築中で

イタリアでは
医療従事者向けの検査を開始

イギリス ドイツ フランスでも
大規模な検査を検討中で

日本では 
医師会から厚労省に普及を要請しています

@免疫パスポート・証明書構想

イタリア イギリス フランスなどで
構想中のもので

免疫パスポートの写真

IgG抗体検査で陽性反応が出た人には
予防接種済みを示すような証明書を与え
社会活動 経済活動 医療活動などに
積極的に参加してもらおうとしています

アメリカの新型コロナウイルス対策の
責任者のファウチ博士も
免疫パスポートについて検討していることを
明かしています

ファウチ博士

アメリカでは他国と比べても
抗体検査への取り組みがとても積極的です

食品医薬品局(FDA)は
15分で抗体検査ができる簡易キットを
開発するセレックス社に
コロナ向けとしては初の承認を出し

セレックス社の簡易キット

トランプ大統領は
さらなる検査キットの承認に
意欲を示しています

また NIHの支援で
シアトル ニューヨーク サンフランシスコ周辺など6カ所で
大規模なサーベイランスとしての
抗体検査を開始しました

毎月千人ずつのボランティアから献血を受け
各地のウイルスの広がり具合を調べていて
最大1万人の検討を目的としています

公園で抗体のサーベイランス検査をしている様子


WHOでも
世界横断的な大規模抗体検査の実現に向けて
「ソリダリティー(連帯)Ⅱ」
と名付けた国際研究を計画しており
複数国が参加しています


<大規模なサーベイランスとしての抗体検査・集団免疫へ>

既に説明したように
新型コロナウイルス感染症では 
無症状者も多く

PCR検査を受けていない人も含めた
実際の感染者数は
現在判明している陽性者数を 
はるかに上回ると推測されます

そこで 
社会全体における既感染の人の割合を調べるために
大きな人口集団で
サーベイランスとして
抗体陽性率を検査する試みは重要で

これは あとで詳しく説明する
集団免疫の評価につながります

こうした検討は 
まだ始まったばかりですが
積極的に行っていく必要があります

抗体検査を行っている様子


書き手は思うのですが
日本でもこうしたサーベイランスを行うために
たとえば献血時に抗体検査を一緒にしたら
いいのではないでしょうか?

ちょうど献血に行く人が
減少して困っているようなので
「あなたが新型コロナウイルスに感染したことがあるか調べます」
と宣伝すれば 
献血に足を運ぶ人が増える気がします


@ドイツ カリフォルニアでのサーベイランス検討

そうしたサーベイランス検討の
先駆け研究の成果が
ボン大学から4月に発表されました

ボン大学から発表された研究成果

新型コロナウイルス感染が多数発生し
住民全体の2%が感染したと推察される
ドイツのガンゲルトという街で
1000人の住人の血液を用いて抗体検査したところ

14%の住民が
新型コロナウイルスに対する
IgG抗体を持っていることが
明らかになりました

この中には まったく無症状で
自分が感染したことに
気付かなかった人もいました

2%の住人が感染した街で
14%の人たちが抗体を持っていた

この結果をどう評価するか
抗体を持っている人が
多いと考えるか 少ないと考えるか


一方 
カリフォルニアのサンタ・クララでも
南カリフォルニア大学が
4月初めに3330人を対象に抗体検査を行ったところ

2.8~5.6%が抗体を有しており
この結果から推定される抗体陽性者数は
実感染者数の28~55倍になると
4/20に報告しています

南カリフォルニア大学から発表された研究成果

抗体陽性者が実感染者よりそんなに多いのは驚きです

今後 世界各地で行われるであろう
検討の展開が楽しみです

次回は 集団免疫に話題を展開します
高橋医院