お酒の喜びを知った人は
強いお酒を飲むようになっていきますが

一方 アジア人はお酒に弱くなっていきます

どうしてでしょう?


@アジア人は酒に弱い

欧米やアフリカ系の民族には
飲んですぐ顔が赤くなるような
酒に弱い体質の人はほとんどいませんが

日本 中国 韓国などでは 酒に弱い人が非常に多く
ほぼ50%は弱いと推察されます

アジア人で酒に弱い人が多いことを示すグラフ

はるか昔
偶然にアルコール分解遺伝子(ADH)強くなった人類の祖先は
アセトアルデヒド分解遺伝子(ALDH)の働きも
強かったと考えられます

ここで追加解説 というか復習します

アルコールは
アルコール分解遺伝子により アセトアルデヒドに分解されますが
このアセトアルデヒドが 飲むと顔が赤くなる原因物質で
さまざまな毒性を有しています

アルコールの代謝について説明する図

ですからアセトアルデヒドが
体内に蓄積して毒を発揮させないように
アセトアルデヒド分解遺伝子により分解されます

アセトアルデヒド分解酵素の働きについてまとめた図

ところが6000年以上前
アセトアルデヒド分解遺伝子の働きが弱い祖先が
突如中国に出現したことが分かってきました


@アジア人が酒に弱い理由

現代のアジアでは 東アジア一帯に
アセトアルデヒド分解遺伝子の働きが弱い人が多く存在しますが

東アジア一帯にアセトアルデヒド分解遺伝子の働きが弱い人が多く存在することを示す地図

この広がり方のパターンが
アジアでの稲作の広まり方のパターンによく似ています

アジアでの稲作の広まり方のパターンとアセトアルデヒド分解遺伝子の働きが弱い人の存在パターンが類似していることを示す地図

6000年以上前の中国では
稲作に適した水辺に多くの人が集まって暮らし始めていましたが
当時は衛生環境も悪く
食べ物に病気を引き起こす悪い微生物などが
付着することが多かったのです

アセトアルデヒド分解遺伝子の働きが弱い祖先が酒を飲むと
体内には分解できないアセトアルデヒドが増えますが

アセトアルデヒドが
悪い微生物を攻撃する薬にもなった可能性があります

一方 
酒に強い祖先は体内のアセトアルデヒドが少なく
悪い微生物が抑えられず大繁殖してしまう

こうして
酒に弱い遺伝子を持つ人の方が
感染症に打ち勝って生き延びやすかったというのが
アジア人が酒に弱い有力な仮説のひとつとされています

つまり私たちの祖先は
酒がもたらす毒まで利用して
病気から身を守るという切実な事情から
わざわざ酒に弱くなる道を選んだ可能性がある

なるほど 毒を以て毒を制す ということですね

アルデヒド分解遺伝子が弱い人の分布が
稲作地域と重なるという事実は 驚きでした
よくそんなことに気が付いたものです! 
スゴイ!

そして再度 
進化とは そういうものなのでしょうね


@酒に弱い遺伝子が稲作とともに日本に伝搬する

この酒に弱い遺伝子が
やがて稲作文化と共に日本列島に渡来し
今では日本人のおよそ4割が
酒に弱い遺伝子タイプになったと考えられています

3000年ぐらい前に
日本列島に稲作を持った人たちが入ってきました

日本列島に稲作を持った人たちが酒に弱い遺伝子タイプも持ち込んだ可能性を示す図

それ以前から日本列島にいた縄文人は
酒に強い遺伝子タイプの人たちが多かったと考えられていますが
(縄文土器に描かれた人たちはお酒が強そうですよね:笑)

大陸から渡ってきた酒に弱い遺伝子タイプと交わり
酒に弱い日本人が増えていった可能性があると推測されています


@酒に弱いことのデメリット

一方で 酒に弱いことのデメリットもあります

アセトアルデヒドを分解する遺伝子の働きが弱い人は
飲酒により頭頸部がんになるリスクが3.6倍
食道がんは7.1倍にも上昇します

酒に強い人も
アセトアルデヒドが体の毒であることは全く同じで
個人差はあるものの
1日に飲むアルコールの量が20gを超えたあたりから
病気になるリスクが上がっていきます

飲酒量と病気発症リスクの相関を示すグラフ

@酒に強いことのデメリット

一方 酒に強い遺伝子タイプの人は
アルコール依存症への注意が必要になります

酒に強い遺伝子タイプとアルコール依存症との関連をまとめた図表


それくらい人間は
酔いの快楽への欲求を断ち切ることのできない生き物に
なってしまったのです


今回のテーマとなった
アルコール分解遺伝子(ADH)
アセトアルデヒド分解遺伝子(ALDH)
の強さと遺伝子変異(遺伝子多型)については
このブログでも紹介しました

アルコール依存症との関係も解説しましたので
興味がある方はご覧ください
高橋医院