新型コロナウイルス抗体検査が
注目されていますが

このウイルスの抗体については
これまでのウイルス感染症とは少し異なることが
報告されています


<通常のウイルス感染における抗体産生>

@抗体のクラススイッチ

普通のウイルス感染では
感染して1週間ほどすると
まずIgM抗体ができて
10日ほどするとIgG抗体ができてきます

さらに時間が経過すると
IgM抗体は減少してきて
IgG抗体が持続します

抗体のクラススイッチを説明する図

この 時間経過に伴う
IgMからIgGへの抗体タイプの変化は
クラス・スイッチと呼ばれ
抗体を産生するBリンパ球が
感染刺激を受けて成熟する過程で起こります


@中和抗体

こうしてできたIgG抗体は
中和抗体と呼ばれ
ウイルスを排除する力を有しています

中和抗体について説明する図

通常のウイルス感染では
一度感染すると IgG抗体が持続するので
同じウイルスが再感染すると
IgG抗体が働いてすぐにウイルスを排除します


<新型コロナウイルスでの抗体産生の不思議>

@重症例ではIgG抗体が多い

新型コロナウイルスの抗体に関する報告は
中国からのものが多いのですが

新型コロナウイルスに感染した
患者さんの70%は
中和活性を有するIgG抗体を持続して有すると
言われています


しかし
高齢で重症化する方では
症状がマイルドな方と比べると
IgG抗体量が多く しかも持続すること
複数の施設から報告されています

重症例では最初からIgG抗体量が多いことを示すグラフ
マイルドな例では重症例ほどIgG抗体量が多くないことを示すグラフ


また重症化している患者さんでは
初期のIgM抗体産生量が多いことも
報告されています

重症例では初期からIgM抗体量が多いことを示すグラフ


@最初からIgG抗体が多い

また
最初からIgG抗体が認められるとの
報告もあります

この現象は
東大の先端医学研究所の児玉先生グループや

最初からIgG抗体が多いことを示すグラフ


アメリカのスタンフォード大学からも
報告されています


<どうして最初からIgG抗体が多いのか?>

最初からIgG抗体が多い理由として
東大先端研では
すでにさまざまなコロナウイルスの亜型に
感染したことがある人が
新型コロナウイルスに感染すると
最初からIgG抗体の反応が見られるのではないか
と推察しています

ウイルス感染経験があると最初からIgG抗体が多いことを示すグラフ
初感染では最初はIgM抗体量が多いことを示すグラフ

また 武漢からの報告では
新型コロナウイルスに感染した経歴のない人間の34%に
新型コロナウイルス抗体が見られることがわかり
この抗体は
新型コロナウイルス以外のコロナウイルス
おそらく風邪コロナウイルスによって
もたらされたのではないかと
推察されています


最初からIgG抗体が多い方は
アジア人で多く見られる傾向があるようです

最近 欧米に比べアジアでは
新型コロナウイルス感染による死亡率が少ないことが
注目されていますが
その理由のひとつとして
こうした機序が考えらています


<悪玉抗体?>

免疫学を専門にされている
大阪大学名誉教授の宮坂先生は
「抗体には善玉と悪玉がある」
と説かれます


宮坂先生は
リンパ球のホーミングがご専門で
書き手は留学していたときに
ホーミングに関連する接着分子の研究をしていたので
研究会や学会などで
何度か質問させていただいたことがあります

剣道の高段者でもある先生は
しょうもない質問をした書き手を
真正面からバッサリ斬られました?(笑)

格好良い先生なのですよ!


微笑む宮坂先生

で 宮坂先生の説明では

善玉抗体は
ウイルスに対する中和活性があり
ウイルスを排除できますが

悪玉抗体は 中和活性がなく
むしろ病気を悪化させてしまいます

だから 新型コロナウイルス感染症でも
単純に抗体の量の多寡を見ているだけでは不十分で
抗体の機能
つまり中和活性を評価しないといけない
と言われています


ちなみに
善玉 悪玉抗体の産生バランスは
ウイルスの種類によっても異なるし
ウイルスが感染した個人の免疫状態によっても
影響されるそうです


悪玉抗体?

書き手は一応 臨床免疫学も専門にしていて
留学先も免疫学教室だったのですが
悪玉抗体というのは初めて聞きました

宮坂先生の造語だと思われますが
でも 悪玉抗体ってなに?
高橋医院