少し前に ビオディナミ製法という
ユニークなワインの造り方を紹介したので
これを機会にワインについて解説しようと思います

まずは ワインというお酒の歴史について


<ワインは簡単なお酒>

ワインの起源をたどると
数千万年前以上にさかのぼると言われます

ブドウの木から落ちた実が
偶然に発酵したものを
ヒトの祖先が口にして 酔っぱらって
お酒としてのワインの歴史が始まったようです

ブドウが自然に発酵している様子

ワインは醸造酒のなかで いちばん簡単に作れるお酒
ブドウの実に含まれる果糖
ブドウの皮についている酵母の働きにより
自然に発酵してアルコールになるのです

ワインの発酵過程を示した図

同じ醸造酒でも
原料の米や麦を処理してデンプンを糖分に変換しないといけない
日本酒やビールより 製作過程が少なくてすみます

ワインと日本酒 ビールの製作過程の差異を説明する図


<メソポタミアは ワインの生みの親>

本格的に作られ始めたのが 紀元前6000年頃で
黒海とカスピ海の間 コーカサス山脈の南のメソポタミアで
シュメール人が初めて作ったとされます

今の グルジアのあたりですね

メソポタミアの地図

ですから メソポタミアは
「ワインの生みの親」と言われています

彼等が作っていたワインは
単にブドウの実を潰して 壺や瓶に詰めて発酵させた
ドブロクのようなものだったと推察されています

これに ハチミツで甘味をつけたり
香辛料で風味をつけたりして
楽しんでいたようです

うわっ!(笑)

ドブロクのようなワイン

紀元前1500年頃になると
濾過技術が発明され ワインも濁り酒から透明なものになり
ここから小アジア 地中海の東西両方向に広がります

西に向っては フェニキア人がギリシアに伝え
それが地中海沿岸に伝わっていきました


<エジプトは ワインの育ての親>

エジプトは「ワインの育ての親」と呼ばれます

ワインの「生みの親」のメソポタミアからもたらされたワインが
エジプトで造り上げられ 花開きました

エジプトでのワイン造りの様子

ワイン造りの最初の革命とも言える
ブドウの実を圧縮し搾汁する工夫が行われたのがエジプトで
テコの原理を利用した圧搾機だったようです

それを濾過する技術も加わって
ワインの品質が向上し 量もたくさん獲れるようになり

さらに 背の高い陶器の壺 アンフォアラ
貯蔵・熟成されるようになりました

アンフォアラ

当時飲まれていたのは ほとんどは赤ワインだったそうです


<ギリシアはワインを大人にした>

そして ギリシアはワインを成人にして完成させました

ギリシア エーゲ海に住んでいた人たちは
ブドウとオリーブの栽培を積極的に行い
それが地中海全域に広がっていったそうです

地中海の地図

地中海に広がる過程で マルセイユにたどり着き
そこから世界に冠たるワイン大国フランスに
初めてワインが広まっていきました

ギリシアの人たちは
ワインを水や海水で割り
香料 ハーブ スパイス ハチミツなどを加えて
楽しんでいたようです

たくさんの著明な哲学者たちが集って議論したという
「シンポジウム」は
実はワインを飲むことが主目的だった
という逸話もあります(笑)

シンポジウムでワインを飲むギリシアの哲学者たち

一方で ワインは
庶民を含む全ての人々にとって 日常的な飲み物になり
今でも 松脂の味がするレツィーナは
ギリシアの人々の間で大人気のワインです

やがて知識人の間に ワイン文化論が生まれてきて
ワインの飲み方について 
高尚さ 洗練さを考えるようになり

ある地域で造られるワインの優秀さは
その周囲の経済的 知的レベルの高さを反映するものになるのです

また ワインは 彼等にとって重要な交易品でもありました


<酒の神様>

人々は昔から 酒の神様 を崇めていました

ワインで酔っぱらって人が粗暴になることは 昔から知られていて
そうしたアルコールの悪い面を律するために
酒の神様が造られたといいます

酒の神様

古代オリエントのディオニソス
エジプトのオシリス
ギリシアのディオニソス
ローマのバッカス

ギリシアのディオニソスは
非理性 情念 奔放 狂乱 闇を象徴し
アポロンの対照的な存在であると
ニーチェは語ったそうです

ワインは 
適量であれば健康と人生の楽しさをもたらすが
度を超すと不健康な泥酔と狂気を招く
という二面性的な本質を 彼等が嗜めているのです

また ハムラビ法典には
飲酒を規制する項目もあったそうです


<神に捧げるお酒へ>

そんなワインは「高貴な酒」で
神からの贈り物と考えられ 
古代から王侯貴族が飲むお酒でした

ワインが高貴な酒であることを示すポスター

ブドウの木の栽培
ワインの醸造には手間と時間がかかるので
贅沢品でもあったのです

そのうちに 
王家 貴族 金持ちが日常的に飲むようになり
庶民はお祭りでワインを楽しみ始めましたが
庶民は日常的にはワインでなくビールを飲んでいたようです

そしてワインは
神様に結びつき 神に捧げる酒になっていきます
高橋医院