高尿酸血症の新たな病型・腸管排泄低下型
高尿酸血症については 以前に解説しましたが 暑い夏を迎えて 痛風発作のリスクも高まり また 治療ガイドラインが2018年に改定されましたので 新たな話題を紹介します <高尿酸血症にともなうリスクとは?> そもそも 高尿酸血症の何がマズいのでしょう? その根本的な疑問に対する答えが *尿酸塩沈着によるリスク *尿酸塩沈着をともなわないリスク *腎障害に進展するリスク の3パターンにまとめて示されました @尿酸塩沈着によるリスク *痛風 *尿路結石 が生じる @尿酸塩沈着に基づかないリスク *さまざまな生活習慣病の発症進展に関連し 尿酸値高値が それらの病態の予測因子 危険因子になる *特に女性では 尿酸値が7.0mg/dL以下でも リスクの上昇を認める *この段階で すぐに尿酸降下薬による治療の適応になるかは まだ判断されていない @腎障害に進展するリスク *尿酸値高値は CKD発症に関連している *CKDでは 尿酸値高値は腎障害進展に関連している *尿酸合成阻害薬のキサンチン酸化還元酵素阻害薬による治療は 腎障害進展抑制に有効である可能性がある これらのことから 高尿酸血症であることそのものが 健康上のリスクであることが判明しました <新たな病型・腸管排泄低下型> 今回のガイドライン改定の目玉のひとつです 高尿酸血症の原因は従来から 尿酸産生過剰型 尿酸排泄低下型 混合型 の3種類に分類されていました @尿酸産生過剰型 *食事からのプリン体摂取が多く 尿酸が作られ過ぎるタイプ *痛風患者全体の20% @尿酸排泄低下型 *腎臓の尿酸排泄能力が弱いタイプ *進行した腎障害患者の無症候性高尿酸血症のほとんど *痛風患者全体の60~70%を占め もっとも多いタイプ *尿細管における尿酸排泄輸送体(トランスポーター)の遺伝子多型が関与する ABCG2遺伝子多型による機能低下 GLUT9遺伝子多型 @混合型 *産生過剰型と排泄低下型がミックスしたタイプ *痛風患者全体の10% 今回のガイドライン改定で この分類に新たに「腎外排泄低下型」が加わりました @腎外排泄低下型 もともと尿酸の排泄は 2/3は腎臓から 1/3は腸管から それぞれ行われることが判っていましたが 腎外排泄低下型は 腸管からの尿酸の排泄低下により 尿酸値が上昇するタイプで 日本人の高尿酸血症患者さんの約7~8割が このタイプと考えられます <ABCG2の遺伝子変異> 腎外排泄低下型の原因となるのが 尿細管や小腸に発現している尿酸排泄トランスポーターの ABCG2の遺伝子変異(SNP)です 変異によりABCG2の機能が低下して 小腸での便中への尿酸分泌が低下し 代償的に腎臓での尿酸排泄が亢進しています
また 小腸の働きが弱まると
尿酸が排泄できなくなることもわかりました
その結果 血中尿酸値は増加してしまいます
この遺伝子変異は 患者さんの80%で認められ 痛風発症リスクが3倍以上に増えてしまいます <高尿酸血症の発症に関わる遺伝因子> @遺伝因子の方が環境因子より影響が大きい 腎外排泄低下型の発見の契機になったのが 10万人以上の高尿酸血症の患者さんの 全遺伝子の変異を検査する 大規模な遺伝子解析(GWAS)研究でした この研究により 患者さんが有する高尿酸血症発症に関わる環境因子は 加齢5.7% 多量飲酒15.4% 肥満18.7% であることが明らかになりました 一方 遺伝因子=ABCG2遺伝子変異を有する患者さんは29.2%で 高尿酸血症の患者さんの約3割が 尿酸を体外に排出する遺伝子の変異により発症していることが 明らかになりました 環境因子より遺伝因子の方が 高尿酸血症の発症への影響が大きいと言えます @痛風の発症リスクにお酒の強さの体質が関与する 一方 痛風の発症リスクにお酒の強さの体質が関与する という興味深い事実も明らかになりました アルコール分解に関わるALDH2の働きがよく お酒に強い人の痛風の発症リスクは 弱い人の2.27倍で ふだん飲酒が月に1回未満の人で調べても お酒に強い人の発症リスクは1.93倍高かったのです お酒に強い人は たとえお酒を飲まなかったとしても 痛風発症のリスクが高い うーん この結果をどう解釈したら良いのでしょう? 本当に関連性はあるのでしょうか? <新たな尿酸関連遺伝子の同定> 今回のGWAS研究では 日本と欧米でそれぞれ10万人以上の解析を行い 日本で8個 欧米で15個の 新たな高尿酸血症の発症に関与する遺伝子変異が同定されました 新たに同定された変異を有する遺伝子は 細胞代謝や増殖 酸化ストレスや炎症に関連したもので 高尿酸血症や痛風の病態解明や 新たな予防法・治療法につながると期待されています 尿酸の腸管への排泄低下が高尿酸血症の原因となるというのは とても興味深い現象で しかも日本人に多いのは驚きでした 今後は 腸管でのABCG2機能を亢進させるような 高尿酸血症の新たな治療方法が開発されるかもしれません
高橋医院