無症候性高尿酸血症の治療は必要か?
高尿酸血症と痛風の新しい治療ガイドラインでは 症状を有さない高尿酸血症の治療指針が示されました <無症候性高尿酸血症の治療> 痛風発作を発症していないけれど尿酸値が高い そんな無症候性高尿酸血症の患者さんを 薬を用いて治療すべきなのか? 日常診療で高頻度に遭遇するこの疑問に対し 今回のガイドライン改定で 明確な指針が示されました @高尿酸血症の何が問題か? 尿酸は男女ともに37℃で7.0 mg/dlまでしか溶けないので 尿酸値が7.0mg/dlを超えると 結晶が析出する可能性が生じます そこで 高尿酸血症は痛風発症のリスクを伴う病的状態 と考えられています そもそも 高尿酸血症は痛風予備軍と見做され *血清尿酸値が7.0mg/dlを越える状態が 数年間以上は続かないと痛風発作は起こらない *尿酸値が高いまま5〜10年も放っておくと痛風になる *高尿酸血症患者のうちの およそ10人に1人が痛風になる *尿酸値が高ければ高いほど痛風になりやすい *尿酸値を低く維持するほど痛風関節炎の発症頻度は低下する といった事実が明らかにされてきました また最近は新たに *尿酸値が8.0mg/dL以上では 痛風発作の頻度が有意に高まる *高尿酸値は さまざまな生活習慣病の発症の独立した危険因子である *持続する高尿酸血症により腎障害が生じる ことが判明しています こうしたエビデンスから 痛風発作の発症を防ぐためには たとえ無症候性でも尿酸値を積極的に低下させることが重要 という考え方がコンセンサスを得つつありました @無症候性高尿酸血症は 治療して尿酸値を下げるべきだ そこで今回のガイドライン改定にともない 「一定の基準を満たす無症候性高尿酸血症には 薬物治療の適応を考慮する」 という指針が示さました 高尿酸血症に *腎障害 尿路結石 *高血圧 虚血性心疾患 *糖尿病 メタボリック症候群 を合併する患者さんは 痛風を発症する前段階 つまり無症候性高尿酸血症の段階からの 治療導入が必要とされました しかし いきなり薬物治療を行うのではなく まずは生活習慣の是正 食生活の改善を行い それでも改善しない場合に薬物治療を考慮すると推奨されています @具体的な治療指針 *8mg/dL未満では まず生活指導 *8mg/dL以上で合併症なしの場合は 9mg/dL未満では 生活指導 9mg/dL以上では 生活指導から薬物治療へ *8mg/dL以上で合併症ありの場合は 生活指導から薬物治療へ と推奨されています 合併症がある場合は たとえ無症候性でも早期からの薬物治療の対象となるわけです これまでは 無症候性高尿酸血症の患者さんや 生活習慣病をともなう高尿酸血症の患者さんは 外来で漠然と経過観察することが多かったのですが 今回の新たな具体的な指針により より科学的に経過観察することができます ちなみに欧米の学会のガイドラインでは 痛風発作を起こしていない無症候性高尿酸血症に対し 尿酸降下薬の投与は推奨されていません 今回の指針は日本オリジナルなものとしても注目されています <生活習慣病の治療薬剤の尿酸低下作用> 上述したように 合併症をともなう高尿酸血症には充分な注意が必要です 興味深いことに 合併症である高血圧 脂質異常症 糖尿病などの 生活習慣病の治療に用いられる薬剤のなかには 尿酸低下作用を有するものがあります @尿酸排泄促進作用を有するもの *降圧薬のARBのロサルタン *高脂血症薬のフィブラート にはURAT1阻害作用があり尿酸排泄を促進します また *糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬 GLP-1受容体作動薬も 尿酸排泄促進作用を有しています @尿酸低下作用を有するもの *高コレステロール治療薬のアトルバスタチン *降圧薬のカルシウム拮抗薬のシルニジピン は 尿酸低下作用があります アトルバスタチンは 血管内皮機能の改善にともなう腎血流量増加により 尿酸低下作用を示し シルニジピンは 腎糸球体輸出細動脈を拡張させ腎保護作用を呈し 尿酸の排泄を促進することに加え 交感神経の抑制により骨格筋の血流が増加し 筋肉からの尿酸産生量を低下させると考えられています しかし注意したいことは 当然ながら生活習慣病の治療に用いられる薬の全てが 尿酸低下作用を有しているわけではありません 例えば降圧薬のなかには 利尿薬やβブロッカーのように 尿酸値をあげる薬もあります むしろ尿酸低下作用を有している薬の方が稀で そのあたりは充分に吟味する必要があります いずれにせよ こうしたエビデンスから 高尿酸血症をともなう生活習慣病では 薬剤治療を開始するにあたり 尿酸低下作用を有する降圧薬 脂質改善薬 糖尿病治療薬を 選択した方が良い と考えられます 臨床医の「気の利いた腕の見せ所」です(笑)
高橋医院