細胞内でのストレス応答
ストレスがかかると どのようにしてHSPの発現が増えてくるのでしょう? <ストレス応答の機序> さまざまなHSPのDNAのプロモーター領域に 共通して存在する配列HSEが発見され そこに結合する転写因子のHSF1も同定されました つまり ストレスがかかると HSF1が活性化されて そのHSEへの結合により さまざまなHSPがいっせいに転写・翻訳され HSPの発現が増えるのです 通常は HSF1に HSF70 HSF90が結合して その作用を不活化していますが ストレスがかかり 細胞内のタンパク質が変性 凝集の危機に陥ると HSPが緊急に必要になるため HSF1への結合から離れて動員されます フリーになったHSF1は ストレスで活性化されてDNAのHSEに結合して さまざまなHSPがいっせいに発現してきます このように ストレス応答を起こす引き金は ストレスによる細胞内タンパク質の変性なのです ストレスが終わり 細胞内でHSPが不要になると HSPは再びHSF1に結合するので HSF1は不活化され HSPの合成は止まります こうして ストレス応答は終了します <タンパク質の再生と分解の両方に関与する> HSPはタンパク質を正しくフォールディングさせ その再生に関わっているだけでなく タンパク質の分解にも関与しています HSPがタンパク質の凝集をある程度減少させてから 分解経路を進ませるシステムです タンパク質の再生と分解のプロセスには 多くの共通点があり いずれもHSPによる 変性したタンパク質の認識から始まります しかし HSPが 再生すべきタンパク質 分解すべきタンパク質を 自ら鑑別しているわけではなく 通常は再生を優先し ストレス時には分解を優先しているようです ストレス時には 凝集したタンパク質の分解が優先されます <医薬品として期待されるHSP> HSPが有する タンパク質のフォールディングを元に戻す作用を利用した 細胞内に変性タンパク質が集積して起こる アルツハイマー病などのフォールディング異常病の治療が 試みられています このため 体内でHSPを増やす薬剤の開発も検討されています フォールディング異常病については またあとで詳しく説明します <HSPの抗炎症作用> 炎症が起こっている場所では HSP70の増加が認められますが HSP70は 症を起こす転写因子のNFkBの活性抑制 炎症性サイトカイン 細胞接着因子の産生抑制 活性酸素による細胞死の抑制 といった作用を有し 抗炎症作用を発揮することが明らかにされています 一方で HSPは 微生物を認識するTLRにより認識されて 異物を処理する自然免疫系を活性化します 体内の一部で炎症が強く起こると その部位の細胞からHSPが放出され 自然免疫系が活性化されて 炎症の原因が排除される機序が働くと推測されています
高橋医院