倹約遺伝子
前回
日本人はインスリン分泌能力が弱いことを
紹介しましたが
日本人が糖尿病になりやすい理由は
それだけではありません
いつやってくるかわからない飢饉や飢餓に備えて
貧しい食生活をしていた日本人の祖先は
「倹約遺伝子」と呼ばれる遺伝的体質を
獲得しました
この倹約遺伝子のおかげで
エネルギーを貯めやすい体質になりました
この体質
飢餓に備えて質素な食生活をしていた頃は
メリットになりましたが
現在のような飽食の時代では
逆に太りやすいというデメリット
になってしまいます
では 倹約遺伝子を有していると
どうして太りやすくなるのでしょう?
無酸素運動の話題のときに
ダイエットにおける
基礎代謝量を増やすことの重要性を説明しましたが
倹約遺伝子は
この基礎代謝量を下げてしまいます
現在までに
約50種類の倹約遺伝子が同定されていますが
特に有名なのが
*β3アドレナリン受容体遺伝子(β3AR)
*脱共役タンパク質1遺伝子(UCP1)
*β2アドレナリン受容体遺伝子(β2AR)
の3つです
これらの遺伝子は それぞれ
・β3アドレナリン受容体
・脱共役タンパク質
・β2アドレナリン受容体
というタンパク質分子を作りますが
この遺伝子の特定の部位に変異があると
作られる分子の性能が異なってきます
(この遺伝子変異の詳細については
こちらをご覧ください)
@β3AR遺伝子に変異があると
変異がない人に比べて基礎代謝量が200kcalも減り
中性脂肪の分解が抑制され
インスリン分泌も低くなりがちです
そのため内臓脂肪を蓄えやすく
お腹が突き出たリンゴ型肥満体型になりやすい
なんと日本人の34%は
このβ3AR遺伝子変異を有しており
その割合の多さは世界有数です
@UCP1遺伝子に変異があると
変異がない人に比べて
基礎代謝量が100kcalも減り
脂肪の分解による熱産生が抑制され
皮下脂肪がたまりやすいので
下半身デブの洋ナシ型肥満体型になりやすい
日本人の25%がこの変異を有していて
特に女性に多く見られます
@β2AR遺伝子に変異があると
変異がない人に比べて
基礎代謝量は300kcalも増えて太りにくくなります
しかし加齢により基礎代謝量が落ちると
今度は逆に痩せにくい体質になります
日本人の16%がこの変異を有しています
これらの遺伝因子を
複数持ち合わせていれば
さらに相加的に太りやすくなるわけです
またこれら以外にも
PPARγという核内受容体型転写因子の遺伝子や
アディポネクチンという脂肪細胞が産生する
アディポカイン(ホルモン様物質)の遺伝子の変異が
脂肪蓄積やインスリン抵抗性を引き起こして
太りやすさに関わることが明らかになっています
このように
日本人は飽食の時代を生きるには厄介な遺伝因子を
高頻度に有しているので
太りすぎに充分に注意する必要があります
では
どうしてこのような遺伝子変異があると
基礎代謝量が落ちるのか?
その答えは to be continued
最後に
遺伝だけで全てが決まるわけではありません
同じ遺伝子を持つ一卵性双生児が
ともに肥満になる確率は
100%ではなく68% というデータがあります
ということは
仮に太りやすい遺伝要因を有していても
食生活などの生活環境の改善を心掛ければ
太らずに済むということです
地道な努力をせずに
遺伝のせいだと片づけてしまうと
遺伝子に怒られますよ!(笑)
高橋医院