3月に上野の東京都美術館で開かれていた
新印象派展に行ってきました

 新印象派展の看板

日本人の印象派好きは世界的にも有名ですが
天邪鬼な書き手は 印象派はちょっと苦手です
(でもセザンヌは贔屓です)

ですが新印象派には興味があります

正確に言うと
彼らが発案した点描主義という技法に
興味があります

新印象派の家元のジョルジュ・スーラの出世作
「グランドジャッド島の日曜の午後」を
画集で初めて見たとき

 画集に示されたグランドジャッド島の日曜の午後

脳天を撃ち抜かれるような強い衝撃は受けませんでしたが 
なんだか不思議な世界だなという印象
は残りました

そんな記憶が頭の片隅に残っていたとき
本屋の書棚に偶然この本を見つけて

 点描主義を解説した本の表紙

スーラが始めてシニャックが広げた 
斬新的な手法である点描主義の何たるかを
知りました

いやー 
最初にこの本を読んだときは驚きましたね!

細かい原色の点をカンバスに描く というか 
モザイクのように色の点を散りばめていく
ことにより

絵を見る者の網膜・大脳後頭葉の色覚野レベルで 
色と色の混ぜ合わせを感じさせる

 網膜・大脳後頭葉の色覚野レベルで色が混ぜ合わされる様子

パレットの上で色を混ぜると濁ってしまい
光の鮮やかさを色で表現しきれない

だから 
原色を直接カンバスに点描することで光を描き出す 
というか 
見る者に 脳で光を感じさせる

このアイデアは凄いと思ったのですよ、、、

しかも色の載せ方は 当時明らかにされた
最先端の光学・色彩理論の規則に正確に従い
補色対比を用いて色を際立たせる

(ちなみに当院のロゴは
 オレンジとブルーの補色を用いています:笑)

 補色対比を解説した図

絵画という芸術なのに なんて科学的なのだろう! 

と当時は思いました

でも 今回の企画展を見て感じたのですが

確かに理論は凄いけれど 
作品は なんだか整いすぎていて 
強く訴えかけてくるものがないようにも感じるのです
(加齢による単なる感受性の劣化でしょうか:苦笑)

色彩理論のお約束や決まりごとに 
あまりにも強くしばられているような気がして

ちなみに家元のスーラは
とても几帳面で律儀な性格の方だったようです

それを聞いて天邪鬼は なるほどと納得しつつ 
ちょっと退いてしまうところもあり(苦笑)


スーラたちの新印象派が画壇にデビューしたのは 
1886年にパリで開かれた 
印象派展としては最後の展覧会

このときルノワールやモネは
作品を出しませんでしたが

新印象派の作品を展示することに 
オリジナルの印象派の関係者達から
少なからぬ抵抗もあったとか

スーラやシニャックは
印象派の先達に深い憧憬と尊敬の念を持っていましたが

ルノワールモネ
後輩達の点描主義の作品に
あまり高い評価を与えていなかったそうです

特にルノワールは
「絵画というものには説明できない部分があり
 それこそが極めて重要なものなのだ」
と述べ

最新の色彩理論にあまりにも忠実な点描主義の画風を
暗に批判したそうな

さらに彼は 
不規則の美学に基づいた「不規則主義者協会」まで
設立しようとしていたとか

大人の世界はコワいですね(笑)

でも 不規則主義者協会 というのは 
個人的にはちょっと魅かれるものがあるかも?(苦笑)


そんなコワい先輩たちと
スーラやシニャックの仲を取り持とうとしたのが 
印象派の長老のピサロ

彼は
自らも新しい点描手法を取り入れて作品を描いていますが 

書き手は個人的には
スーラやシニャックの作品より ピサロの作品が好みです

 ピサロの作品

なんとなく暖かい感じがする  

同じ点描の技法を用いていても
スーラの作品にはないものを感じるのですよ

でも そんなピサロも晩年は点描主義を離れていったとか


ただ 点描主義はベルギーやオランダに広がっていくと 
ちょっと面白い展開を見せます

オランダのヤン・トーロップは
 
敢えて補色を無視した色使いを用いることにより 
安定性に欠ける幻想的な世界を描こうとしましたし

 ヤン・トーロップの作品

ベルギーのルイセルベルヘは
点描の手法を用い 風景画でなく肖像画を描いています

 ルイセルベルヘが描いた肖像画

スーラたちは
自然の光を描くために点描手法を開発しましたが

その点描手法を
風景画でなく肖像画に応用し
個人の内面を描くために用いたのは
とても面白いと思いました

トーロップもルイセルベルへも
今回の企画展で初めて知りましたが印象に残りました


早死にしたスーラのあと
新印象派を率いたシニャックは晩年になると
 
小さい点描だと冷たい印象を与えるし
色彩の輝きが失われてしまう
と感じるようになり

視覚混合効果や科学的客観性の縛りを解いて 
叙情的な表現をするために 
モザイクのような大きな色面と筆触を
用いるようになりました

 シニャックの作品

個人的にはこういう画風の方が好みです

この流れが
やがてマティスらのフォービズムに
繋がっていったそうです

月並みな感想で恐縮ですが

科学だけで芸術しようとすると
やはり無理があるのかもしれません

そういえば
個人的にはダヴィンチも
あまり好みではないしなあ、、、

いやはや 天邪鬼は困ったものです(苦笑)
高橋医院