かぶきもの
歌舞伎の市川染五郎さんが この夏 ラスベガスで 自ら演出・主演された歌舞伎公演の ドキュメンタリー番組を見ました 伝統ある高麗屋の伝統を引き継ぐ 染五郎さん 若手のホープというイメージでしたが もう42歳になられ ご長男も既に松本金太郎くんとして 舞台に立たれているとか 書き手にとって「染五郎」というと お父様の松本幸四郎さんのイメージが強かったのですが 数年前に見た 近松門左衛門の「女殺し油地獄」で 昔馴染みの油屋の若女房のお吉を金目当てに殺してしまう ヤクザ者の放蕩息子の与兵衛を 今の染五郎さんが演じられており そのときの演技が印象に残り 7代目の認識をさせていただきました 与兵衛を染五郎さんが お吉を当時の亀次郎・今の猿之助さんが演じ なかなか見応えがあったのですが 染五郎さんが演じた“品のあるワル”ぶりが とても印象的でした 品の良さと弱さは 表裏一体のようなところがあると思いますが それが故に お育ちの良い染五郎さんが演じた与兵衛は ワルの内面に抱える弱さがうまく表現されていた そんな風に感じたのを憶えています 正直言うと 最初の頃は 松たか子のお兄さんとして 認識していたのですが(笑) で 7代目染五郎さんが ラスベガスに持って行かれた演目は 鯉つかみ 書き手が5月に 片岡愛之助さんが演じられたのを見た演目ですが 染五郎さんは今回 とても斬新な演出をされました ホテルベラージオの前にある 巨大な池と噴水装置の上に舞台を設営し CGで作った桜 蛍 紅葉といった日本の四季の風景や 主演の染五郎さんが格闘する鯉などの映像を 壮大に吹き出る噴水に プロジョクションマッピングして映し出します そうした背景と役者さんたちがコラボして 舞台空間を作り出すのです さらに 舞台に登場するときは 和式の渡し船に乗って現れ 鯉と格闘する場面では 池の上に作られた舞台を走り回り 見る者に まるで染五郎さんが水の上を駆けているような 印象を持たせる この場面では 生々しい臨場感を演出するために 敢えて走るルートを示すライトを消させます スタッフが 池(深さ4mもあるそうな)に落ちるリスクがあるので 危険だと反対しても 彼は自分の信念を曲げません その信念とは お客様を楽しませること! これはさすがだと思いましたよ 歌舞伎の原点は 見る者を驚かせ 楽しませる傾奇(かぶき)の世界 そのためには 最新のCG映像やプロジェクションマッピングを駆使した演出を行い 演ずるときは自らの危険を顧みずに奮闘する プロですねえ、、、 書き手は個人的には 歌舞伎の面白さは ぱぱんっ という小気味よい拍子木の効果音と 見栄を切ったりする役者さんの決まりごとの技に 凝縮されているように感じますが かぶく世界なのですから 面白ければ何でもありでしょう 伝統芸能でありながら 時代の先端を取込んで進化する これこそが 歌舞伎の良さであり 同じ日本の伝統芸能であるお能や文楽との 大きな違いのように思います 文楽とのコラボを試みた お爺さんの白鷗さん シェイクスピア劇やミュージカルに挑んだ お父さんの幸四郎さん カッテイング・エッジの 最先端にいることを良しとした高麗屋の伝統が 7代目染五郎さんにも しっかりと引き継がれているのだなと感じました 歌舞伎がアメリカ進出を目論んでいるのなら とても効果的なプロパガンダになったことでしょう こういう荒業で見る者の興味を引いて やがて日本の伝統の世界に引きずりこむ きっかけにすればよいと思います この舞台 ナマで見てみたかったです 日本で再現するのは スケールの問題で ちょっと難しいかな? 久しぶりに高麗屋さんの舞台を見てみたくなりました
高橋医院