電子とエネルギー産生
ヒトが 食物を食べて栄養素を摂り 呼吸をして酸素を取り入れる ことにより 日々の活動や生命活動を維持していくための エネルギーが作られることを 説明していますが その途中から 電子がどうとかこうとか 言われはじめて どうも頭の中がこんがらがってきて 閉口されているのではないでしょうか? そこで どうして食物からエネルギーが得られるのか? その基本概念を解説したいと思います 最もプリミティブな疑問ですが なぜ 栄養素には エネルギーが含まれているのでしょう? <なぜ栄養素にはエネルギーがあるのか?> それは 栄養素は化合物だからです 栄養素が化学合成される際には エネルギーが必要とされ 作られた栄養素には そのエネルギーが貯めこまれて 栄養素が分解されるとき 貯めこまれていたエネルギーが 放出されるのです このあたりは専門外なので もしかしたら 間違っているかもしれませんが グルコース分子を形成する 炭素 水素 酸素の間の化学結合に エネルギーが貯めこまれていて 代謝反応により 分子が分解されていく過程で 下図の左下に示されている C-O(炭素-酸素) C-H(炭素-水素)などの それぞれの原子間の化学結合に 貯めこまれているエネルギーが放出される そんなイメージでしょうか? たとえば グルコースが分解されるとき 解糖系を経てピルビン酸を経てアセチルCoAになるまでに グルコースが有するエネルギーの 15~30%が放出され アセチルCoAがTCA回路によって 完全に分解されると 70~80%のエネルギーが放出され それらの放出されたエネルギーが 電子伝達系で 最終的にATPに変換されます <エネルギー放出は 酸化還元反応により行われる> さて 栄養素に貯めこまれたエネルギーを放出する 分解反応は 酸化還元反応です @酸化還元反応は 電子をやり取りする反応である 酸化還元反応とは 物質間の化学反応の過程において 電子(e)の授受がある反応のことで 生体内には 200種類以上の酸化還元酵素があり これらがさまざまな反応で電子の移動を行い 生命活動を維持しています つまり エネルギーは 酸化還元反応で作られ その酸化還元反応は 物質間の電子の授受により行われているので 電子(e) がキープレーヤーとして登場してくるのです 食物からエネルギーを得る過程で なぜ電子が登場してくるのか イメージできたでしょうか? 栄養素の代謝過程においては 酸化反応により 化合物が分子に分解され 結合エネルギーが放出されます このとき エネルギーは どのように化合物から放出されるかというと 電子の放出によってなされます @水素が電子の運搬役になる そして 多くの場合 電子は単独では存在できないので 水素原子が電子の運搬役として機能します ですから 水素が栄養素のエネルギーを担っている とも言えるわけで 食物は水素を多く含むほど 高カロリーということになります 栄養素の解説の際にまた言及しますが 脂質が糖質より高いエネルギーを有しているのは 糖質より水素の含有量が高いからです @酸素が必要とされる理由 そして 電子を運搬する役目を終えた水素は 酸素と結合して水になります 下図は 次回詳しく説明する 電子伝達系の概略ですが 右から2番目の複合体Ⅳでみられるように 電子伝達系の最後の段階で 水素は酸素と結合して水になり 安定した状態になります 呼吸で体内に取り込んだ酸素は ここで必要になってくるわけです もしヒトが呼吸できなくなって 酸素を取り込めなくなると 水素が電子を伝搬することで 栄養素から放出したエネルギーを用いて ATPを作る工程を 完遂できなくなるので ヒトはエネルギーを得ることが出来なくなり さまざまな生命活動が維持できません これが 呼吸が止まると命が途絶えてしまう理由です だいぶ こんがらがってきたかもしれませんから ここまでの話を整理すると *食物は それを構成する原子間の化学結合によるエネルギーを 内包していて *食物が分解されて エネルギーが放出される過程は 酸化還元反応で *酸化還元反応は 電子の受け渡しが行われる反応で *電子の受け渡しには 水素が関与していて *電子を運搬し終えた水素は 呼吸で得た酸素と結合して水になる ということです 少し頭の中が整理されてきたでしょうか? さて もう少し説明させてください <電子の伝達体 NAD+ NADH> TCA回路や電子伝達系では 水素とともに電子を受け取ったり供給したりして 酸化・還元反応を仲介している物質があります それが NAD+/NADH です NAD+は ニコチンアミド リボース(五単糖) ピロリン酸 アデノシン から構成され ニコチンアミドの原料は ビタミンBの1種のニコチン酸です 生体にもっとも広く分布する電子の伝達体で さまざまな酸化還元反応や脱水素反応に 関与しています NAD+は酸化型 NADHは還元型 相互の型を可逆的に行き来して 電子の授受を行い *解糖系でのグルコースのリン酸化反応 *TCA回路での アセチルCoAから水素を取り出す反応 などの種々の反応で 脱水素酵素の補酵素として働いています グルコースの分解過程では 解糖系とTCA回路で中間代謝物が何度か酸化され NAD+からNADHが生成されます 生成されたNADHは 電子伝達系に入り その反応過程で 次々とNAD+との間で電子の受け渡しを行い この一連の酸化還元反応 つまり電子の流れ(=電流)で得られたエネルギーを利用して 最終的にATPが合成されます 栄養素に蓄えられていたエネルギーが 分解されて放出され 生体が利用できるエネルギーのATPが作られますが その本体は 酸化還元反応 であること 酸化還元反応の実態は NAD+/NADHの間の電子(e)の授受 であること が イメージできたでしょうか? 最後におまけですが このように 生命活動の本質を担っている電子の伝達に 欠かせないキープレーヤーである NAD+の構成分子のひとつが ビタミンB(ニコチンアミド)であることに 注目してください ビタミンBが ヒトに欠かせない微量栄養素である理由が 理解できると思います それから 最近NADHは 老化制御に関連する物質として注目されていますが そのあたりは また稿を改めて説明します さて 次回はいよいよ ATPが産生される現場である電子伝達系の解説をします
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