機能性ディスペプシアのつらい症状は

胃や十二指腸に
はっきりとした病変があるから
起きるわけではありません

むしろ 
内視鏡検査をしても何の異常もないのに
つらい症状が続くのが
この病気の特徴です

機能性デイスペプシアでは内視鏡検査では異常を認めないことを示す図

では どうして 
つらい症状が起きてくるのでしょう?


<運動機能異常 と 内臓知覚過敏>

ベースにあるのは
胃の運動機能の異常と考えられています

それに加えて 胃の痛みを感じやすい

この状態を専門的には内臓知覚過敏」と言います

*胃の運動に異常があるので
 痛みや不快さが生じて
 = 運動機能以上

*痛みに敏感なので
 より容易に感じやすい
 = 内臓知覚過敏

こうして つらい症状が出現してきます

内臓知覚過敏により自覚症状が出現することを解説する図

今日はまず
胃の運動機能の異常について説明します

胃の運動異常と症状の関連を示す図

<胃の運動機能異常>

ヒトは食事をすると
食道から胃に咀嚼された食物が入りますが
そのとき 
胃はどのように動くのでしょう?

@食物を食べたときの胃の正常な運動

通常は 胃に食物が入ると 
さらに食物を続けて受け入れられるように
胃の上部が広がります

この反応を 適応性弛緩反応 と呼びます

ついで
胃全体が波打つように蠕動運動をして
食物と胃液を充分に混ぜて消化をしながら
食物を胃の出口の方に運びます

それから
消化した食物を十二指腸に排出します

食事をしたときの胃の正常な運動を示す図

これが生理的な胃の運動ですが

機能性デイスペプシアでは
これらの運動に異常が生じてきます


ディスペプシアでの胃の運動の異常は
大きくふたつに分かれます

@適応性弛緩反応の低下

上述したように 
胃に食物が入ると
通常は胃の入口に近い部分が弛緩することで
多くの食物が受け入れられますが

この適応性弛緩反応が低下すると
胃が拡張されないので
早期に胃の飽満感を感じ
上腹部痛や不快感などの症状が起こります

早期飽満感を訴える
機能性ディスペプシア患者さんの
約40~50%で
適応性弛緩反応の低下がみられるとされています

胃の拡張機能低下 排出機能低下を説明した図


@胃排出の遅延

胃排出とは
食物を消化して胃から十二指腸に排出する
食後の胃の運動ことで

通常は胃の中に食物が入ると
十二指腸につながる部位が収縮して
内容物を十二指腸に送り出します

この胃排出が遅延すると
食物が胃に長く停滞することになり
胃もたれ 食後膨満感 嘔気などの症状の発現に
つながってしまいます

前回説明した
食後愁訴症候群の症状の原因と推察されていて
機能性ディスペプシア患者さんの約20~40%で
胃排出の遅延を認めます

胃の排出遅延の説明図

この2種類の異常は 
相互に密接に関連していて

通常は 胃のなかの食物は
十分な時間をかけて
十二指腸へ運び込まれますが

胃の拡張が低下すると
貯めこまれないので
急に十二指腸へ
食物と胃酸が運び込まれてしまう

すると十二指腸はびっくりして
ゆっくり食物が入ってくるように
胃の排出機能を抑えるように働きかけ

その結果として
食物が胃から排出されなくなり
胃もたれなどの症状が生じてしまう

悪循環です


<食べたものの内容により症状が悪化する>
 
食物の内容も
機能性ディスペプシアの症状に影響します

脂質やデキストロースが
十二指腸内に急に入ってくると
嘔気が認められ
飽満感や腹部不快感が増強することが
示されています

その際に十二指腸では
各種の栄養素の刺激で
セロトニン CCK サブスタンスP セロトニンといった
消化管ホルモンの産生が高まり

胃や脳に作用して
胃の運動が変化して
症状が発現すると考えられています

こうしたことから
機能性ディスペプシアの症状の発現には
胃そのものだけでなく
十二指腸も関与していると考えられていて

最近は一部の機能性ディスペプシアでは
十二指腸粘膜における
炎症や免疫細胞浸潤が
病態形成に関与することが
明らかにされています

胃には炎症がなくても
十二指腸に炎症があると
胃の症状が起こる

なんだか複雑ですね

もうひとつの原因の 知覚過敏については
次回に説明します
高橋医院