三大栄養素のクロストーク
中央区・内科・高橋医院の 健康のための栄養学に関する情報 ヒトの体にとって エネルギーを得ることがいちばん大切ですから 摂取した栄養素が足りないときや 激しい運動で急にエネルギーを使った時などは 体内の成分からエネルギーを得るため 逆に 過剰な栄養素を摂取したときは 体内にエネルギーを備蓄するため 糖質 脂質 タンパク質は お互いの代謝間で クロストークします <三大栄養素はクロストークしている> 三大栄養素の解説を始めたばかりで それぞれの栄養素に関する知識もないのに いきなり 各栄養素のクロストークなんて言われて 面食らうかもしれませんが 試験管内では 糖質 脂質 タンパク質は 別々に検討できますが ヒトの体内では 各栄養素が複雑にクロストークして エネルギーを得たり 溜めこんだりしているわけです もちろん最初は 個々の栄養素について 詳しく学ばねばなりませんが 体内で起こっている現象を理解しようとすると そのように縦糸方向の知識だけでは 全体像がつかめなくなります ですから 横糸方向の知識 各栄養素のクロストークについて 学ぶことが重要です まず そうした事実を認識していただいてから 個々の栄養素の説明をした方が良いと思い 敢えて最初に クロストークの話をすることにしました <三大栄養素の分解と吸収> 食物に含まれる 糖質 脂質 タンパク質は それぞれ胃や腸で分解され *糖質は グルコースなどの単糖類 *脂質は 脂肪酸とグリセロール *タンパク質は アミノ酸 として吸収されます このそれぞれが 血流にのって体内を移動し 各栄養素が 体内で代謝・合成される際の基本単位 となります で クロストークですが <糖は 過剰だと脂質に変換される> ミトコンドリアで グルコースから 解糖系→TCA回路→電子伝達系の経路で エネルギー(ATP)が作られます 余ったグルコースは グリコーゲンに変換され 肝臓や筋肉に蓄えられます 栄養過剰で高血糖になり グリコーゲンの貯蔵容量がオーバーすると 過剰なグルコースは 脂肪細胞に取り込まれ アセチルCoA→マロニルCoAを経て 脂肪酸に変換され 中性脂肪として蓄えられます こうして 過剰な糖質は中性脂肪になり 肥満が誘導されます <脂質は糖に変換されない> 中性脂肪は 分解されて脂肪酸になり ミトコンドリアに入り β酸化という過程によりアセチルCoAに変換され TCA回路→電子伝達系の経路で ATPが作られます (下図右のオレンジ色の経路) 運動などでエネルギーが使われて 肝臓などに蓄積された グリコーゲンが枯渇してくると 脂肪組織の中性脂肪が 分解されて脂肪酸になり エネルギー源として使われます しかし 脂肪酸がグルコースに変換されることは ありません <タンパク質は エネルギー不足だと 糖にも脂質にも変換される> タンパク質が エネルギーとして利用される頻度は 多くありませんが 運動時はエネルギーの10%が タンパク質・アミノ酸から供給されます @アミノ酸はTCA回路に入りATPを産生できる その場合 αアミノ基が取り除かれ 脱アミノ化されたアミノ酸が (下図で赤・青のアルファベットで示されたもの) TCA回路の中間代謝物 (下図で緑文字で示されたもの)に変換され 続く電子伝達系でATPが作られます @アミノ酸はグルコースに変換される また エネルギーが欠乏し グリコーゲンが使い果たされると グルコースに変換され得るアミノ酸(糖原性アミノ酸)が 脱アミノ化された後に TCA回路の中間代謝物の ピルビン酸 アセチルCoA αケトグルタル酸 などに変換され TCA回路をまわり 解糖系をさかのぼって グルコースが作られます (下図で 中央の列を下がり 左の列を上がる経路) この現象を 糖新生と言います @アミノ酸は脂肪酸に変換される 一方 脂質に変換され得るアミノ酸(ケト原性アミノ酸)は 脱アミノ化された後に アセチルCoAに変換され 脂質代謝経路をさかのぼって 脂質(脂肪酸)に転換されます <アミノ酸は TCA回路の中間代謝体から作られる> TCA回路の中間代謝体の αケトグルタル酸に アミノ基が転移されると グルタミン酸が合成され グルタミン酸のアミノ基の 他のTCA回路中間代謝体への結合により 種々のアミノ酸ができます たとえば オキザロ酢酸にアミノ基がつくと アスパラギン酸になり ピルビン酸にアミノ基がつくと アラニンになります <3大栄養素は臨機応変にTCA回路で互いに変換しあう> このように 糖質 脂質 タンパク質は それぞれが エネルギー源として用いられるだけでなく *エネルギー不足のときは タンパク質から糖質が作られますし *エネルギー過剰のときは 糖質が脂質に変換され蓄えられます *タンパク質は 脂質の材料にもなり得ます つまり 糖質 脂質 タンパク質の代謝は クロストークしていて 体の状況に応じて *糖質から 脂質へ *タンパク質から 糖質や脂質へ と 臨機応変に互いに変換しているわけです そして このクロストークが起きる場がTCA回路です TCA回路は 既に説明したように 10種類の反応の連鎖からなる 循環型サークル反応ですが 各反応でできる中間代謝体が 糖質 脂質 アミノ酸の代謝に 繋がります まさに 栄養素のクロストークの場といえます TCA回路は 栄養素の分解物を材料にしてエネルギーを得る過程 という印象が強いですが 上述した 糖新生 アミノ酸合成 脂質合成にみられるように グルコースや脂肪酸やアミノ酸から TCA回路の中間代謝物を経由して 糖質 脂質 タンパク質が合成される TCA回路には そうした合成に貢献する側面もあります 書き手も医学生のときは TCA回路 面倒くさい! という印象でしたし ゲノム全盛の現代では こうした生化学反応は古臭いとも思っていましたが あらためて勉強し直してみて よくこんな複雑な回路が解明できたものだと ちょっと感嘆しています 勉強してると 何度も思うことですが ホントにヒトの体は 複雑で精巧にできているものです さて 今日の話は こんがらがっていてよくわからなかった! と 不満に思われている読み手の方も 多いかもしれませんが 次回から 各栄養素について詳しく説明しますので それらを読み終わってから もう一度 今日の話に戻ってきてください そうすると なんとなく解ったような気分になるはず です?(笑)
高橋医院