咳はなぜ起こるか?
風邪をひいたときに 苦しむ咳ですが 実は咳には とても重要な働きがあるのです <咳の効用> それは 咳をすることで 呼吸器系に入った異物を外に出すことです つまり 咳は 重要な生体防御反応 といえます 咳をすることで 異物が呼吸器系に入ってくるのを防いでいるのです ちなみに 咳をするときに吐きだすものは 1秒間で50~100mも先まで 飛んでいくそうで すごい威力ですね 風邪をひいたときに 細菌やウイルスが沢山存在している粘液を 周囲にまき散らさないように マスクをすることが大切な理由が わかっていただけるかと思います また 咳を1回すると 2kcal分のエネルギーを消費します 咳が長引いてつらいときに 体力を消耗してしまう理由が よくわかります <咳嗽反射> では 咳はどのようにして起こるのでしょう? 端的に言うと 咳は咳嗽反射により起こります 咳嗽(がいそう)なんて言葉は 初めて聞くかたも多いと思いますが 咳のことをオタクっぽく言うと(笑) 咳嗽と呼びます @咳嗽反射の経路 咳嗽反射とは 脳を介した反射経路です *上気道・下気道に分布する咳受容体への刺激が *末梢神経の上咽頭神経・自律神経の迷走神経に伝わり *その刺激が 脳の延髄にある孤束核に到達し *孤束核から刺激が横隔神経 肋間神経に伝わって 胸郭を構成する筋肉が反射的に収縮します そうした反射経路の結果として 咳が起こります 咳という一見単純に見える症状も 脳を巻き込んだ複雑な反応であることを ご理解いただけたでしょうか? あとで述べますが 脳を巻き込むからこそ 風邪のときなどに処方される鎮咳薬が 脳に作用して 効果を発揮することができるのです @咳嗽反射を起こさせるもの 咳嗽反射を引き起こす最初の引き金は 何でしょう? それこそが 咳の原因となる異物 微生物 化学物質などです 気道には 入ってきた異物を認識するセンサーがあって ホコリ 細菌 ウイルス 化学物質などが そのセンサーを刺激すると 咳嗽反射の引き金を引くのです @咳受容体 センサーの正体は 咳受容体 と呼ばれています 気管に存在する知覚神経の終末には irritant receptor と C線維 で 構成される咳受容体があり C線維が刺激されると 神経末端に蓄積されている 神経ペプチドや (サブスタンスP ニューロキニンなど) プロスタグランジンなどが遊離され それらがirritant receptorを刺激して 咳嗽反射が起こります @サブスタンスP 少しオタクっぽい話になりますが 咳を起こす代表的な化学物質である サブスタンスPは *咳をしている患者さんの血中で 高値を示しますし *気道感染があると サブスタンスPを分解する酵素が減少して 結果的に血中のサブスタンスPが増えます また 服用すると咳を起こすことがある 血圧降下剤のACE阻害剤は 血中のサブスタンスPを増加させます このように サブスタンスPは 咳に原因に大きく関与しています サブスタンスPを増加させ 咳を誘導する物質としては *各種のプロスタグランジン *ヒスタミン *ロイコトリエン *一酸化窒素 *カプサイシン などが知られています プロスタグランジンD2 E2 F2α ヒスタミン ロイコトリエン などは アレルギーの病態形成に関わる物質で アレルギーのときに咳が出やすくなる原因です また カプサイシンは唐辛子の辛み成分で 辛いものを食べたときに反射的に咳がでるのは カプサイシンがサブスタンスPを増加させるためなのです さて 今日の話をまとめますが @咳は 生体防御に欠かせない 重要な生理的な反射反応 である @異物や微生物が 咳受容体を刺激して 咳嗽反射が誘導される @さまざまな物質が 咳受容体の活性化に関与する ということを イメージできたでしょうか? では 本来なら 異物を除去してすぐに収まるはずの咳が どうして風邪をひいたりすると 長引いてしまうのでしょう? その理由を 次回に説明します
高橋医院