中央区・内科・高橋医院の
食事と健康に関する情報 


レプチンは食欲を抑制するので

肥満のヒトにレプチンを投与すれば
痩せられる!

レプチンが発見されたとき 
大騒ぎになって

大手製薬会社は レプチンの発見者に
大きな研究所が建てられるくらいの大金を払って 
その権利を買ったそうです

夢のレプチンカプセル

ところが その目論見は 
あっという間に崩れてしまいました

だって

肥満のヒトの血中レプチンを測定してみたら
やせている人よりも 
はるかに高かったのです!

下の棒グラフ 
左の3本が男性 右の3本が女性で
黒が肥満 濃いグレーがやや肥満 薄グレーが肥満でない人

体重が増えるにつれて 
血中レプチン値が高くなっています

体重が増えるにつれて 血中レプチン値が高くなっていることを示すグラフ

やせさせるためにレプチンを投与しても 
それでは意味がない!(苦笑)

まあ レプチンは
脂肪細胞から分泌される物質なので
脂肪たっぷりのおデブちゃんの血中に
レプチンが沢山存在するのは
当たり前といえば当たり前ですが

では 
どうしておデブの血中にたくさんあるレプチンは
食欲を抑えて 代謝を亢進させて 
痩せさせてくれないのでしょう?

そういえば 似たような話を
このブログで
以前に読んだことはありませんか?

糖尿病の患者さんの一部では
インスリンがたくさん分泌しているのに 
血糖が下がらない

だって インスリン抵抗性 になっているから

はい それと同じで

肥満のヒトは
レプチンがいくら沢山あっても 
食欲は抑制されません

だって 
レプチン抵抗性になっているから

脳で起きているレプチン抵抗性を示す図

<レプチン抵抗性>

肥満で脂肪細胞がレプチンを分泌し続けたり
高脂肪食を食べ続けたりすると

レプチンがあっても 
その作用は見られなくなります

食欲制御に関係する脳の部位では
弓状核にいちばん早く
レプチン抵抗性が見られるようになるそうです

前回説明したように 
レプチンは
食欲制御に関係する
脳のさまざまな部位に作用して

食欲を低下させ 
代謝を活発化させ
快楽をともなう食欲だって低下させるのに

残念なことに
おデブさんはレプチンをたくさん持っているのに
そうした効果は全く認められないのです

インスリン抵抗性といい 
レプチン抵抗性といい

ホントにデブの体は 
めんどうくさくて厄介なことになっていて
困ったものです(苦笑)

肥満でレプチン抵抗性が生じている様子を示す図


<どうしてレプチン抵抗性が起こってくるのか?>

インスリン抵抗性と比べると
その詳細なメカニズムはわかっていませんが

肥満なヒトでは

*レプチンが
 血液と脳を隔てる脳脊髄関門をうまく通過できないので
 血中には沢山あっても 脳で働くレプチンは少ない

レプチンが血液と脳を隔てる脳脊髄関門をうまく通過できない可能性を示す図

*視床下部でレプチン受容体を発現する細胞において
 レプチン受容体の
 細胞内から細胞表面への移動が上手くいかず
 レプチンの刺激が細胞内に伝わらない

*同上の細胞において
 受容体の細胞内部分におけるシグナル伝達が
 SOCS3 PTP1bなどの抑制因子により
 過剰に抑制されるため
 レプチンの働きが阻害される

レプチンによる細胞内情伝達体の不具合の可能性を示す図

*視床下部で 
 過剰な脂肪酸による脂質毒性や
 過剰な栄養により
 小胞体ストレスが生じて 
 それが慢性炎症を誘導してしまう

*視床下部で慢性炎症が生じると
 受容体の細胞内部分における
 シグナル伝達が抑制され
 さらに弓状核でのニューロンが減少してしまう

といった いくつかの原因が想定されています

インスリン抵抗性で見られたように
受容体から核に至る
細胞内情報伝達に障害が起きている可能性があり

それに加えて
肥満によって誘導される
脳内の慢性炎症が関わっている
と推測されています

こうした
レプチン抵抗性を誘導する機序が解明され
その状態を改善する手立てが見つかれば
肥満状態でもレプチンが機能できるようになり

まさに当初の目論みどおり
レプチンが夢の抗肥満薬として
活躍できる日が来るかもしれません
高橋医院