前回ご紹介した鉄欠乏性貧血の 
治療について解説します

<食事療法>

平成16 年の厚生労働省の調査では
男性で1日あたり8.1mg 
女性で7.7mg
の鉄しか摂っておらず

特に鉄を必要とする
20歳台で6.9mg 
30歳台で7.0mg
と 必要量の半分しか摂取できていません

したがって 女性の半数が
鉄欠乏性貧血 
または貧血にまでは至っていないけれど 
鉄欠乏状態です

女性の貧血 鉄欠乏性貧血の頻度を示すグラフ

食事からの鉄の摂取は 
年々減り続けているのが現状で
日頃の生活の食事内容に注意が必要です

@ヘム鉄と非ヘム鉄

食事中には 
ヘム鉄と非ヘム鉄とが含まれています

*ヘム鉄は 
 肉や魚に多く含まれ

*非ヘム鉄は 
 穀類 緑黄色野菜 海草に多く含まれています

ヘム鉄 非ヘム鉄を多く含む食材を示す図

ヘム鉄の吸収率が
15~25%であるのに対し

非ヘム鉄の吸収率は2~5%と 
吸収が不良なのが特徴です

ヘム鉄 非ヘム鉄の吸収率の差異を示す図

したがって 
レバー 肉 魚などを積極的に摂ることが勧められます

また 
非ヘム鉄はヘム鉄より吸収率が悪いですが
動物性タンパク質と一緒に摂取すると
吸収率が上がりますので
上手に食材を組み合わせて食べることが大切です


@鉄の吸収に影響を及ぼす因子

消化管での鉄の吸収に
影響をおよぼす因子があるので注意が必要です

*タンニン

コーヒー 緑茶 紅茶にはタンニンが含まれ
このタンニンは鉄吸収を阻害します

鉄吸収を阻害するタンニンを多く含む飲料の図示

非ヘム鉄は 
タンニンなどからの吸収阻害を受けますが

ヘム鉄は
鉄イオンがポルフィリン環に囲まれているため
阻害を受けにくく
そのために吸収されやすいとされています

*ビタミンC

ビタミンC は
鉄を吸収しやすい形にすることによって 
鉄吸収を促進します

消化管における非ヘム鉄の吸収効率は 
ビタミンCにより改善しますし
後述する経口剤の鉄剤服用時にも 
ビタミンCを合わせて飲むと効果的です

ビタミンCによる鉄吸収率増加を示す図


ちなみに 意外にバカにならない点として

*鉄鍋や鉄瓶で調理したものからは 
 鉄分が多く摂れること

*鉄を含む健康食品やサプリメントは
 予防に有用であること

があげられます

鉄を含むサプリメント

欧米では
人口の20~30%がサプリメントを使用していますが
日本では 2~3%にすぎません

コンビニなどで売られている
鉄剤サプリを服用するだけで
貧血が改善する患者さんもおられます


<鉄剤を用いた治療>

食事療法は 
貧血の再発予防には有用ですが

食事療法だけで
鉄欠乏性貧血の治療をするのは 
困難なこともあります

1日の鉄分摂取推奨量と食事から摂取する鉄分量の差異を示すグラフ

そうした場合は 鉄剤を用いた治療が行われます

@経口鉄剤

1日に鉄分を100~200mg投与し
通常は2か月程度で 貧血は改善します

経口鉄剤

副作用として
食欲の減退 むかつき 吐き気 
便秘 下痢などがみられる場合があり

ものを噛んだとき金属の味がしやすい
便が黒くなる
といったこともあります

経口鉄剤の副作用をまとめた図

こうした副作用の予防や 
前述した消化管での吸収率向上のために
ビタミンC製剤を同時投与することが多いです


また これも前述しましたが
お茶やコーヒーに含まれるタンニンが
鉄分の吸収を妨げることから

鉄剤の服用時には 
お茶やコーヒーと一緒に飲まないようにいわれています

副作用がどうしてもつらくて 
薬を継続して飲めない患者さんもおられます

当院でもそうした患者さんがおられますが
その場合は
 
@鉄剤の静脈注射

による治療を行います

経口鉄剤の副作用のため 
治療に逡巡されている方は 
ご相談ください

@いつまで治療を継続すべきか?

治療を行うと
まず 血清鉄が最初に増えてきて
それからヘモグロビンが上昇しはじめて
最後にフェリチンが上昇してきます

体内で鉄が減ってくる順番と 
まさに逆パターンです

そこで 治療の目標は

ヘモグロビンだけでなく 
貯蔵鉄のフェリチン値が正常化することで

原則として それまで治療を継続します

そのため 
ヘモグロビンが上昇したからといって
鉄剤を自己判断でやめずに

担当医の指示に従って
しっかりとフェリチンを基準値が戻るまで
治療を続けましょう

貯蔵鉄の回復までの治療継続の重要性を示す図

ちなみに

ピロリ菌に感染していると 
鉄の吸収が障害されるので
経口の鉄剤が効きません

除菌治療でピロリ菌を除去してから 
治療を行うことが必要になります





高橋医院