ノヴェンバー・ステップス
琵琶と尺八とオーケストラの競演 大きな課題に取り組む武満さんは 長野の山中に籠り悩み続けます そして 山中を散策していたとき 風の音や鳥の音が調和して聞こえる のどかな自然のなかで 公共放送のスピーカーから チャイコフスキーの白鳥の湖が 田んぼに響くのを聞き はっと閃かれます オーケストラが奏でる音を バックに流れる環境の音のように扱い 琵琶や尺八と協奏させればいいのでは? そうしたアイデアのもとに生まれたのが ノヴェンバー・ステップスです この曲を通じて 日本の文化を世界に示したい そう意気込んで NYフィルの本拠地に現れた 武満さん 琵琶の鶴田錦史さん 尺八の横山勝也さん 和服姿で舞台に昇り挨拶する 鶴田さん 横山さんの姿に 楽団員の一部からは笑いが漏れたそうですが 指揮台から小澤さんが 即座に投げかけた厳しい視線を受け 沈黙が流れたそうです その小澤さんは NYフィルで武満さんのこの曲が演奏された意義を こう語ります 日本の楽器 音楽には 西洋音楽に屈しない 西洋とは異なる音楽の世界があることを 西洋社会に知らしめた なるほど 先駆者たちは そこまでの意気込みを持っておられたのですね 格好良いけれど それにしても 小澤さん 若い!(笑) さて ノヴェンバー・ステップスを聴いてみると 琵琶 尺八とオーケストラの協奏曲 ということでしたが この楽譜にも示されているように 実際は両者が重なるところは あまりないのですよね 少なくとも 融合感はない オケが 通常の西洋音楽を演奏するときとは異なり 微妙に そして緻密に 音を濁らせて 風のうねりのような雰囲気の音を 作り出して そこに琵琶と尺八が入っていくと オケの音は背景音のように広がっていく 互いに譲らず しかし 互いを損なわず 小澤さんは ”尺八と琵琶の喧嘩をオケが包み込むような” といった表現をされていました まあ しかし 初めてこの曲を聴いたNYの人たちは さぞかしビックリされたことでしょう 日本人の書き手が聴いても ちょっとびっくりでしたから(笑) 正直言って 書き手は この曲を聴いて 面白いとは思いましたが それほどスゴイと感動するまでの 気持ちは持てなかったのですが オケのなかで ハープの存在が気になりました その音色や響きが 琵琶・尺八の世界とオーケストラの世界を うまく繫げているような気がします 武満さんの世界は なんとなく難解な哲学的雰囲気が 漂っていそうですが 一度 彼が書かれたものを 読んでみようかなと思いました
高橋医院