酵素反応の面白さ
酵素は どのようにして触媒反応を行っているのでしょう? 実はその詳細はいまだ明らかにされていませんが 以下に示す機序が考えられています <酵素は活性化エネルギーを下げ 反応を容易にする> 一般に化学反応は 下記のようなプロセスを経て進行します @活性化エネルギー *反応物質に化学反応が起こるには エネルギーの高い山を超える必要があります *反応物質が この山を超えられるだけのエネルギーを有していないと 化学反応は完遂できません *山を超えるのに必要なエネルギーを 「活性化エネルギー」と呼びます @活性化状態 *化学反応が起こると 反応物質のなかで 原子の組み換えが連続的に起こります *活性化エネルギーが最大になると 化学反応が最盛期になります *このエネルギーの山で活発に反応が起きている状態が 「活性化状態」です @反応熱 *反応が生じると多量の熱が放出され 最終的に反応物質よりエネルギー状態が低い 生成物質が出来ます *放出された熱・エネルギーは「反応熱」と呼ばれます *反応熱により 反応物質の分子が加熱され活性化されるので それ以降も反応が 連鎖的かつ爆発的に進んでいくことができます では 酵素が加わると 化学反応はどのように変化するのでしょう? @酵素の働きにより 活性化エネルギーを抑えられる *酵素の触媒作用により 活性化エネルギーを低くすることができるので 化学反応が迅速に進行すると考えられています *しかし 活性化エネルギーを低くする詳細な機序はわかっていません <酵素と基質が結合する機序> @鍵と鍵穴 *基質の形状と 酵素の基質結合部位の形状が 3次元構造的に「鍵と鍵穴(立体構造上のくぼみ)」 の関係にあり 酵素の基質結合部位に存在するくぼみ(鍵穴)に うまく結合できる構造の基質(鍵)だけを 酵素の作用が発揮される活性中心へ導くことで 酵素作用が発現される と考えられています *基質と酵素の活性中心は 水素結合 イオン結合といった反応により結合します <酵素と基質の結合により起きる立体的な変化> @エントロピー・トラップ *酵素の機能部位である活性中心では 基質が酵素に結合する部位(結合部位)と 酵素が触媒作用を発揮する部位(触媒部位)は 別々に存在します *基質は結合部位に結合すると自由が奪われ 活性中心の触媒部位に正面から向かわされます *この作用により 反応全体のエントロピーが減少し 活性化エネルギーを下げることができます @基質を触媒部位に適切に向かわせることで 基質の有効濃度を高める効果もあります @誘導適合 *基質の結合により 酵素の立体構造が変化し 触媒部位が適切な位置に配置され 結合した基質とうまく向いあえるので 反応が起こりやすくなります @基質分子の立体構造をひずませる *結合により 基質分子が圧迫されたりねじられたりして 切れやすくなるため 触媒反応が起こりやすくなります こうしたさまざまな構造上の立体的変化により 酵素の触媒作用が円滑に効率的に進行すると 考えられています 一方 酵素反応は 過剰に行われないように調節されています <酵素反応の調節機構> @フィードバック制御 *代謝反応で生じた生産物が過剰になると その代謝反応を触媒している酵素の活性に フィードバック阻害がかかるので 過剰な生産は制御されます *反応の最終産物の代謝生産物が酵素の阻害剤となり フィードバックをかけることがよくあります @アロステリック制御 *フィードバック調節のひとつで 酵素機能が他の化合物(エフェクター)によって 調節されることです *エフェクターは 酵素が関わる代謝の生産物のこともあり 代謝反応とは全く関係ない物質のこともあります *エフェクターは 酵素の基質とは構造が大きく異なり 酵素の基質結合部位とは異なる 調節部位(アロステリック部位)に結合すると 考えられています *この結合により 酵素の立体構造が変化し 基質結合部位の構造も変化すると 酵素の触媒活性や複合体形成反応が 正または負に制御されます *酵素の活性を 促進するエフェクターは アロステリック・アクティベーター 抑制するエフェクターは アロステリック・インヒビター と呼ばれます *アロステリック制御を受ける酵素の多くは 複数のサブユニットの会合体の構造をしていて 活性中心とアロステリック部位が 別々のサブユニットに存在していることもあります 酵素そのものも さまざまな機序により 活性化されたり失活したりします <酵素の活性化> @酵素の前駆体の切断 不活性な前駆タンパク質としてつくられ ペプチド鎖の一部が切られて 活性型酵素に変化するものがあります *ペプシノーゲン → ペプシン *トリプシノーゲン → トリプシン *キモトリプシノーゲン → キモトリプシン *プロエラスターゼ → エラスターゼ *プロトロンビン → トロンビン など @リン酸化 脱リン酸化 *酵素のタンパク質構造に セリン トレオニン チロシン残基がある場合 そのOH基はリン酸化されることがあります *リン酸化により酵素が活性化することがあり その場合は脱リン酸化が起こると酵素活性は失われます *逆にリン酸化により 酵素が不活化されることもあります *リン酸化・脱リン酸化は 生体内で幅広く行われている重要な反応なのです @こうした ペプチド鎖の切断 リン酸化・脱リン酸化といった 酵素活性の制御も 全て酵素反応により行われます <酵素活性の失活> @立体構造の変化 酵素が活性を失う原因には その立体構造の変化が深く関与しています @原因 *失活の原因として 熱 pH 塩濃度 溶媒 他の酵素による作用 などが知られています *これらの条件が大きく変わると 酵素の立体構造が不可逆的に変わり 酵素は失活してしまうのです 今日のお話は 基礎的な内容で難しかったかもしれませんが *なぜ酵素の触媒作用により 化学反応がスムーズに進むか *酵素反応は制御されている *酵素活性も制御されている といったイメージを 少しでも持っていただけたら幸いです このあたりは 医学生の頃に生化学で 必死に でも面白く勉強したので とても懐かしいです アロステリック制御のことを知って興奮したのを 思い出しました(笑)
高橋医院