薬物の相互作用
薬物性肝障害の解説をしましたので この機会に 実際に薬物を服用している方に注意していただきたい 薬物相互作用について解説したいと思います <薬物相互作用とは?> 薬物相互作用とは 複数の薬物を服用する際に ある薬物が 別の薬物の作用に影響を与えることで *薬物の作用が増強する場合 *減弱化する場合 *新たな副作用が生じる場合 があります <シトクロームP450(CYP)> 薬物相互作用の主役は 既にご紹介した薬物代謝の第1相で活躍する 薬物代謝酵素のシトクロームP450(CYP)です CYPは ヒトでは50種類ほどの種類がありますが 薬物代謝に主として関わるのは 1A2 2C9 2C19 2D6 3A4 の5種類です @薬物によって 代謝に利用されるCYPの種類が異なります ですから 同じ種類のCYPで代謝される 2種類以上の異なる薬物を服用した場合 薬物相互作用が起こる可能性があります @CYP3A4 CYPの中でも 3A4で代謝される薬物が最も多いため このCYPで代謝される *免疫抑制剤のシクロスポリン *抗生物質のマクロライド *降圧剤のカルシウム拮抗薬 *抗てんかん薬のカルバマゼピン 等の薬物を併用した場合 相互作用が起こり得ます これらの薬物の中で 3A4に対する親和性が高いものと低いものがあり 複数の薬物を併用する際は 親和性が低い薬物は 親和性が高薬物にCYPを利用されてしまい その代謝が阻害されてしまうので 薬物の血中濃度が上昇するため 効きすぎたり 副作用が出やすくなります ということで これらの薬物を併用する際には注意が必要になります 降圧剤のカルシウム拮抗薬と 抗生物質のマクロライドの併用などは 通常の外来診療であり得ることですから 高血圧の治療をされている方が 風邪などで受診される際には 服用されている降圧剤のことを 医師に相談された方がいいでしょう <CYPの誘導と阻害> CYPには 特定の薬物により発現が誘導されたり 働きが阻害されるものがあります @CYPの働きが阻害される例 *CYP2C9 不整脈や脳梗塞の治療で用いられる 抗凝固薬のワーファリンは CYP2C9により代謝されますが 胃潰瘍治療薬のシメチジン(H2受容体遮断薬)は CYP2C9の働きを阻害するので ワーファリン服用者がシメチジンを一緒に飲むと ワーファリンが代謝されず 効きすぎて出血しやすくなり得るので注意が必要です *CYP1A2 シメチジンは CYP1A2の働きも阻害するので 1A2で代謝される喘息薬のテオフィリン服用者が シメチジンを併用すると テオフィリンが代謝されず半減期が長くなり 動悸などの副作用が出やすくなります *CYP3A4 CYPの阻害で忘れてはならないのが グレープフルーツジュースがCYP3A4を阻害して 3A4で代謝される 降圧剤のカルシウム拮抗剤などの作用を 増強することですが このことは食品と薬物の相互作用の項で詳しく解説します @CYPの発現が誘導される例 *CYP1A2 1A2は 喫煙により誘導され活性が高まるので 喫煙患者は非喫煙者より 1A2で代謝される喘息薬のテオフィリンが 効率よく代謝されて半減期が短くなるので 効きが悪くなってしまいます *CYP3A4 うつ病に効果があるとされる 健康食品のセント・ジョーンズ・ワートは 3A4の発現誘導を引き起こします 上述したように 3A4で代謝される薬物は数多くあるので そうした薬物とセント・ジョーンズ・ワートを併用する際には 薬の効果が十分に得られないことがあり得るので 注意が必要です このように 異なる種類の薬物を併用することにより 特定のCYPの量や活性が変化してしまい そのCYPにより代謝される薬物の効果が 強まったり 副作用が強く出たり 逆に弱まったりすることがあるので 注意が必要です 多くのお医者さんが薬物を処方するときに 1日量や副作用を必ず確認するときに参考にする バイブル的な「今日の治療薬」という本には CYP何某で代謝される薬との併用に注意 といった警告が 薬剤によっては記載されています 書き手も 既に他の薬を服用されている患者さんに 新しい薬を処方する際には 必ず確認するようにしています ですから 既に薬物を服用されている方が 新しく別の薬物を服用される際には 主治医の先生にお薬手帳を見せて よく相談されることをお勧めします
高橋医院