分子料理 vs テロワリスト
国末さんが書かれた ミシュランに関する本には 分子調理法とテロワール主義の話題も出ていて 面白かったです <分子料理> 分子調理法は 1980年代にフランスで生み出された調理法で もともとは 食のアートに いかに科学的見地から迫れるか 試みたものでしたが 1990年代後半から 料理界の世界的なトレンドになっていきました 科学の知識を応用し 化学反応 圧力差などを調理の手法として用い 低温調理 泡状化 冷凍粉砕・瞬間凍結 球化 ゲル化 接着 といったテクニックを駆使します 食材を構成する分子に焦点をあて それらがどのような条件で結合するのかを 根本から見直し それがどう食に結び付くか 調理法と化学反応の類似点を見出そうと試みで 分子結合と温度の関係が ヒトの食欲をそそるような色彩 味 舌ざわりに 取り入れられるのか検討します ソーダサイフォン 減圧調理器具 泡状化機器 粉砕加熱器 冷凍粉砕器 液体窒素 などを駆使して 高級食材を粉砕したり泡にしたりします フォアグラを泡状にすることで 新しい食感を生み出したりできます そうして出来た料理は 見た目は泡だらけで 食感は極めて柔らかい よりカリカリした食感 繊細な舌触り 明確な味 軽い食後感も楽しめます そして 料理が載ったお皿の風景も とてもモダンです 分子調理により 料理人は食材の魅力を存分に引き出し 料理の美味しさを引き立てることが できるようになり 見た目だけでなく 味の面でも際立たせてくれることができました スペイン北東 フィゲラスにある レストラン エル・ブジを主宰する フェラン・アドリアが 分子調理界の中心的存在です 彼のお店では 30以上の小皿が供されますが 一皿の分量がごく少量で そのなかに多様性がある驚きが隠されているので 味覚の多様化も楽します アドリアさんは 驚きは感動を構成する重要な要素なので いつも客が感動する料理をつくりたい 予想もしなかった視覚 嗅覚 味覚の世界 客が驚いて感動する料理 人の五感すべてに働きかけ 人の脳をびっくりさせる料理 そして同時に 食材の味や香りを失わないまま 胃袋にもたれない料理 分子調理により そのような料理を目指したい と語ります 素材の良さだけに安住するのを 良しとしない モノそのものだけでは 人は感動させられず 手の込んだモノが 初めて人を感動させる という信念があるようです <テロワリスト> 一方で 分子調理法への反発も大きいものがあります 反発する人々は テロワリスト と呼ばれ 土地に根付いた食材 素材を 重視しようという考え方が基本にあります 料理にとって最も大切なのは 代々伝えられてきた知恵の積み重ねで 素材と季節感を なによりも優先させるべきである 季節ならではの地元の食材を生かし 正確な火入れで焼き上げたりする こってりとした味付け たっぷりの量 テロワリストの料理人は語ります シンプルな料理を食べながら わいわいやって幸せになる 昔は皆がやっていたそんな楽しみが 最近は少なくなっていて 得体の知れない姿形をした分子料理が もてはやされている 分子料理は 食べる人の満足度よりも 見た目の奇異さや印象ばかり重視する 分子料理で大量に料理に入れる 着色料 ゲル化剤 乳化剤 酸化剤等が 健康に大きな影響を与えるリスクも危惧します 料理は 精神と手仕事の融合で 科学より文学の方が 料理にとってずっと大切なものだ 食べ物は神聖なもの 食べ物で遊んではいけない そんな風に主張するテロワリストは 自らを科学者でなく職人と位置づけます テロワール主義は フランスのシェフが中心となっていますが 分子料理を推進したスペインの料理人への 対抗心もあるのかもしれません 書き手も 日本や外国で 分子料理を経験したことがあります 確かに粉末化したフォアグラなどには びっくりしたし 美味しかったのですが でも正直言って 一度体験したらそれで充分とも思いました 同じお店にもう一度行きたいとは 思わなかったです 分子料理とテロワリスト料理 どちらに興味があるかと聞かれたら テロワリストの料理と答えます 科学より文学の方が 料理にとってずっと大切なものだ という指摘は 真っ当だと思うのですよ 保守的ですかね?(苦笑)
高橋医院