アラン・ドロンの話を続けます

インタビューは
彼のパリの定宿である
ホテル・ムーリスの
スイートルームで行われました

タキシードを着崩し
ノーネクタイで
長い水色のマフラーを粋に纏い
現れたアラン

ムーリスでインタビューに答えるアラン・ドロン

80歳を越えただけあって
さすがに往年の輝きはありませんが
それでもいまだに充分にハンサムです

インタビューアーに向い
時折ウインクをして
キスの素振りまでします

ちょっと品はないけれど
でも好感は持てる
好々爺的な感じもします

こんな風に歳を重ねるのも 
良いかもしれません

語るアラン

彼は 
これまでの人生 出演した作品を
振り返ります

1960年
「太陽がいっぱい」でデビュー

太陽がいっぱいの出演シーン

監督のルネ・クレマンを
師匠と呼んでいました


続いて出演した 
「若者のすべて」「山猫」を監督した
ルキノ・ビスコンティは

太陽がいっぱいを見て
アランを使いたいとオファーしたそうです

山猫でビスコンテイから演技指導を受けるアラン

俳優とは何か 
どうやって泣くか 
どうやって笑うか

「役を“生きる”」ことのすべてを
ルキノからたたき込まれたそうで
彼を 偉大なる指揮者 と讃えます

ビスコンテイと語るアラン

「若者のすべて」では 
貧しいが高貴な青年

アランとビスコンテイ

「山猫」では 
没落していく貴族

山猫の出演シーン

全く異なるキャラクターを
演じ分けられたのは
ルキノのおかげだと語ります


若い頃に 
多くの巨匠に巡り合え 育てられて
アランは幸せでしたね


1967年の「サムライ」では
孤独な暗殺者を演じました

サムライの出演シーン

寡黙で内面に何か抱え込む主人公は
自分に通じ合うものがあった

自分がやりたかったことと
ピタリ合っていて
自分の代表作だと思う

サムライという生き方に
とても惹かれていた

と懐かしみます


サムライには 
アラキリのイメージがあるそうです
(フランス語はHを発音しませんからね:笑)

それにしても 外人さんは 
どうして皆 
あんなに腹切りに興味を持つのかな?


1980年代になると 価値観が多様化して
正統派二枚目である彼の活躍の場は減りますが
未だにフランス映画界のレジェンドとして
存在感を示しています

年老いてもなお元気なアラン

彼は 
俳優という仕事について語ります

俳優とは
「頼まれたことをやる仕事だ」

自分はその役を“生きる” 
役を“生きる”ことが
仕事なのだそうです

コメディアンは
若い頃から演技の専門教育を受けたプロだが

俳優は 自分のように
演技の教育を受けず
たまたま演技の世界に入った者だ

コメディアンは役を “演じ” 
俳優は役を “生きる”

俳優はコメディアンのように
演ずることを学んでいないので
“生きる”ことしかできないのだと

演技について語るアラン

そして 
“演じる”と“生きる”は
全く異なるとも語ります


役を演じる 役を生きる

そんなこと 
今まで考えたこともなかったので
びっくりしました

面白そうだけれど 
難しそうな感じもします


評論家からは
「どの作品でもアランだ」 
と言われるそうです

それは 
“演じていない”ことへの揶揄かな
とも思いますが

アランは

全ての作品の役を
“生きた”のだから 
そう言われて当然だ

全ての役が自分自身である

と言い放ちます

ちょっと 
禅問答的になってきましたね


老いた今 
彼はこんなことも語ります

記者が
「アランが死んだら
 “サムライが死んだ”と記事を書く」
と言ってくれた

それは素晴らしいことだ

信頼できる友人が
「アランは全てに才能がある 
 幸福になること以外は」
と語ったけれど

それを聞いて 
真実なのでゾッとした

そう アランには
どことなく不幸せなオーラが
つきまとっている感じが
するのですよ

だから 
アランがそう語るのを聞いて
こちらもビックリしました

生きていくことは楽しいけれど
つらいのでもあるのでしょう


知りませんでしたが
アランは無類の犬好きだそうです

偽善を憎むから犬が好き 
だって犬は絶対に裏切らないから

犬を抱くアラン

えーっ そんなことを語るの?

彼の人生には 
つらいことも多かったのでしょう
なんだか せつないですね

別荘の庭には
これまで飼った35匹の犬の墓があり

そのすぐ脇に小さなチャペルがあって
そこにアランの墓が用意されているそうです

そこに埋葬されるのが望み だとか

うーん、、、、


このまま終わるとちょっと暗いので

最後に 
ダーバンのCMのお話をご紹介しましょう

1970年代に一世を風靡した
アランが出てくる
日本の紳士服のダーバンのコマーシャル

ダーバンのコマーシャルにでるアラン

三船敏郎さんが出演を口説いたそうですが

CMの最後に 自ら

C’EST L’ELEGANCE DE L’HOMME MODERNE

とナレーションを入れます

書き手は中学生でこれを聞いたとき
セレガンス ドロン モデーム 
と聞こえ

ドロンの服という意味かなと思っていましたが

現代に生きる男のエレガンス
という意味だったのですね

今 初めて知りました(笑)


ちなみに
日本の会社が最初に用意したナレーションでは
「アダルトな男」という表現だったそうですが

アランは「アダルト」でなく
「エレガンス」という言葉を選択したそうです

「アダルト」という言葉が持つニュアンスは
日本と外国では異なるのですね

さすが「エレガンス」を好む国フランスの
俳優さんだけあります(笑)
高橋医院