ヴァンドーム広場のエレガンス
かれこれ 1年前のことになりますが 三菱一号館美術館で開かれていた ショーメ展 なかなか見に行く機会がなく 期間終了間際に尋ねたら凄い長蛇の列で 仕方ないのでショップで図版だけ 買ってきましたが NHKの「エレガンスの舞台裏」という番組で ショーメの工房の紹介をしていました 脚本家の大石静さんが フランスのエレガンスを求めて パリでさまざまな人々に 取材された番組です ショーメは ナポレオンが愛した 240年の歴史を持つ高級宝飾メゾンです ヴァンドーム広場に静かにたたずむ 19世紀半ばのナポレオン時代の 海軍提督の館が本店で ここはショパンが 晩年を過ごした場所だとか ショーメといえば ティアラの最高権威だそうです ティアラに全く縁がない書き手は 知る由もありません(笑) 世界の皇帝 王室 貴族が愛する オーダーメイドのティアラを制作し ダイヤが数千個も散りばめられる そのお値段は 最低でも1億円を超えるとか! ちなみに オーダーメイドの宝飾品の打ち合わせは こんなプライベートな空間で 行われるそうですが そうしたときにお客さんとは 予算の話はしないそうです 「メゾンの歴史を踏まえたうえで お店に相談しに来られるお客さまにとって お値段は重要なことではないでしょう」 とお店の方は語られていました(笑) で 番組では 第13代目の工房長との会話が面白い 工房は宝飾品の制作部門で 14人の職人が働かれています お客に喜んでもらいたいという 純粋な気持ちをもとに 自らの感性と心の全てをこめて造った作品に 誇りを感じ お客が作品を初めて手にしたときの感動を ずっと持ち続けて欲しいと願う そして 古くからの機械を続けて使用し 長年受継がれてきた伝統を継承していく 職人の皆さんは そんな方々のようです 宝飾品の制作は 次のようなプロセスで進みます まずデザイン画ありきで デザイナーさんは お客との会話を通して 客の個性 印象を見抜いて インスピレーションを持ち デザイン画を描きます 客と時間をかけて さまざまなテーマについて語っていると その人柄までわかってくるそうです そして デザイン画はコンピューターでなく 手で描かれる 手書きの方がイメージを 膨らませやすいそうで レトロな家内制手工業の感じがしますね! さらに デザイナー 工房の職人 宝石買い付け責任者の ミーティングを経て 実際の制作が開始されます 工房では 作品に適した職人の「手」が選ばれます 工房長が その作品は誰が造るのがふさわしいか 決めるそうで それだけ 職人の技術と個性が卓越していて メゾンも職人の技量を 全面的に信頼しているのですね 選ばれた職人は デザイン画のみを見て 宝石が載る台座を1枚の金属板から 作り上げます この過程では 経験から得た感覚が全てだそうです 一方で 材料となる宝石の買い付けが行われます 責任者は 作品のイメージに合う宝石の種類を選び 数か月以上かけて宝石を買い付ける その際 組合せて用いられる宝石同士の 色の調和を重視します 同じ種類の宝石でも 産地によって色や輝きが異なるそうで 例えばサファイアは マダガスカル産は明るく ミャンマー産は 濃い青色をしているとのこと 興味深いですね! こうして 職人が作った台座に宝石が詰め込まれて 宝飾品が完成します 出来上がった作品は ため息が出るほど美しいです! 宝石が充分に光り輝くように 石をはめ込む穴の研磨も しっかりと行われますが (この過程がジュエリーの完成度を 大きく左右するそうです) 実はこの過程を省いている業者も 少なくないそうです さすが 老舗メゾン! ショーメの取材の最後に 文化遺産部門の名誉学芸員の 貴族の女性にインタビューします 彼女はメゾンが保存している 18世紀のデザイン帳を披露され 自然主義の時代に リアルに精密に描かれたデザイン画を 見せながら ありのままの自然を賛美する価値観 自然主義こそが ショーメの哲学で 生きた自然こそが メゾンの作品のモチーフです と語られます そこには ナポレオンの最初の奥さんだった ジョゼフィーヌの影響が大きいとか 彼女は好奇心が強く 美しく珍しいものを愛していて ジュエリーは自分を表現するものと 考えていたそうです ショーメの 数あるティアラのなかでも ひときわ印象的な 「麦の穂のティアラ」 シンプルなデザインの 風に吹かれてたなびく麦の穂の姿は ジョゼフィーヌの生まれ故郷の 西インド諸島のマルティニーク島の 自然の美しさ 力強さを 表現しているそうです ジョゼフィーヌ マルティニーク島の 生まれだったのですね 知りませんでした 左利きには マルティニーク島は 有機栽培されたラム酒の名産地として 認識されています(笑)
最後に彼女は メゾンの哲学についてこう語ります 詩的な美しさを好み もろさや儚さ 壊れやすさも 愛おしむ 人生の脅威に 凛とした美しさで耐え 立ち向かうことを表現する 単なる装飾品ではなく 美しい精神を宿す エレガントなメッセージである 自然の美しさを尊ぶ姿勢で 宝石を装飾して 人生の生き方を表現するなんて 奥が深いですね! さすが お値段が立派なだけあります(笑) 最後に大石さんは 「身につける者に 強い芯 自我が確立していないと つけられない宝石」 とまとめられていました いやー お値段の面でも 身につける資質の面でも 幸か不幸か 縁がありません(笑)
高橋医院