前回お話ししたように
書き手が医学生の頃には
慢性炎症という言葉は
聞きませんでした

病理学の講義で習った
「炎症」と言えば
「急性炎症」です


<急性炎症>

急性炎症とは 
病原菌から体を守る防御反応です

炎症の定義を示す図

*病原体が侵入した局所の
 血管が広がり 血流が増える

*そこに流れてきた白血球が
 血管から組織に漏れだす

*白血球が異物を認識して
 排除する

という一連の反応です

炎症の場への白血球の浸潤を示す図


「発赤 発熱 腫脹 疼痛」という
ギリシア時代から報告されてきた
典型的な4兆候を認めます

炎症の4兆候を示す図

そして
炎症が起こった局所は
一度は傷ついて荒れた状態になりますが
やがて修復されます

こうした
生体の病原菌や異物に対する
一過性の防御反応が
急性炎症です


<慢性炎症>

では 慢性炎症は
急性炎症と何が違うのでしょう?

慢性炎症は
週~月単位の時間経過で起こる
“くすぶり型”の持続する炎症です


急性炎症 慢性炎症の違いを示す表

急性炎症との大きな違いは
病原体などの外因性刺激だけでなく
体のなかからの内因性刺激によっても
炎症が生じる
ことです

どんな内因性刺激によって生じるかは
あとで詳しく説明します


@何がマズいの?

慢性炎症の何が問題かというと

何らかの繰り返される刺激により
同じ場所で
炎症が繰り返し起こると

組織は炎症・修復を繰り返しながら
着実に劣化していくのです

専門的な言葉では
「組織リモデリングが起こる」
と言います

組織リモデリングを説明する図
組織の実質細胞 間質細胞の
相互作用が遷延して
組織の構成細胞が変化する
血管新生 免疫細胞の浸潤 線維化
などが起こる

こうした反応が起こると
線維化により組織が
硬くなり柔軟性が失われ
それが不可逆的な変化になり
臓器の機能が低下していくのです

慢性炎症での不可逆的な機能低下を説明する図

また 
炎症が局所だけに留まらず
全身に拡散していきます

炎症反応で生じた
TNF-α IL-6 IL-1 などの
炎症性サイトカイン血流にのって全身をめぐるので
全身で炎症が増強されてしまいます

炎症性サイトカインによる全身炎症形成を示す図

TNF-αは
膵臓や筋肉などで
インスリン抵抗性を誘導し
糖尿病の原因となります

ヤバさが想像できてきましたか?


@サイレント・キラー

慢性炎症は急性炎症と異なり
症状が軽いので
自覚されず 
発見されにくいのが特徴です


慢性炎症は自覚症状がないことを示す図

自覚症状は全くないけれど
体内では持続して
炎症が起こっている状態で

こうした炎症の積み重ねにより
生活習慣病 がん 認知症などのさまざま病気や
老化が起こります

つまり 多くの病気の根底に
知らぬ間に
慢性炎症が存在するわけで

最近では 慢性炎症は
「サイレント・キラー」
と呼ばれています

慢性炎症はサイレントキラーであることを示す図

高橋医院