慢性炎症の引き金となる体内因子
慢性炎症と急性炎症の 大きな違いは 慢性炎症は 病原体などの外因性刺激だけでなく 体内からの 内因性刺激によっても生じること と説明しましたが 具体的にどのような体内因子により 慢性炎症が生じるのでしょう? <活性酸素> ミトコンドリアでの エネルギー産生過程で 活性酸素が産生されますが 体内で活性酸素に対する 抗酸化力が落ちてくると 炎症が起きやすくなります また 活性酸素は 不飽和脂肪酸を酸化させて 過酸化脂質を作り LDL-Cを酸化させて 血管内に慢性炎症を起こし 動脈硬化を誘導します <終末糖酸化物・AGE> 体内の過剰な糖は メイラード反応により タンパク質と結合して 終末糖酸化物AGEになります AGEは 受容体のRAGEにより認識され AGEで刺激された細胞は 炎症性サイトカインを放出し 慢性炎症を引き起こします また AGEは活性酸素も増やします このように 酸化・糖化により 炎症が引き起こされ 炎症が酸化・糖化を進ませる という悪循環が形成され 慢性炎症は 酸化 糖化 炎症が 互いに影響しあいながら 進行していくのです <飽和脂肪酸> メタボでは 脂肪細胞内に蓄えられた 過剰な中性脂肪が リパーゼにより 脂肪酸とグリセロールに分解され 血中遊離脂肪酸が増えます 肥満の人は 大型脂肪細胞内の 脂肪蓄積が多いので 常に遊離脂肪酸が遊離するのです 遊離脂肪酸のなかで 飽和脂肪酸は炎症を誘導し 脂肪蓄積と慢性炎症をつなぐ 鍵の分子となります 飽和脂肪酸は 次回詳しく説明する TLR4という分子を刺激して 慢性炎症を誘導するのです 飽和脂肪酸のパルミチン酸は マクロファージのTLR4を刺激して TNF-αを分泌させ 慢性炎症を起こさせるだけでなく インスリン抵抗性を誘導します TNF-αは 脂肪分解を亢進するので 脂肪酸放出が促進し 悪循環を形成されます また 飽和脂肪酸は 細胞内の 代謝ストレス経路 (ISR integrated stress response) を活性化し 慢性炎症を誘導します 細胞がストレスを感じると起こってくる 細胞内ストレスには *小胞体ストレス *低酸素ストレス *酸化ストレス などの種類がありますが 代謝ストレス経路もそのひとつで 慢性炎症を誘導するのです 肥満のヒトでは 飽和脂肪酸が 代謝ストレス要因として その経路を活性化し 慢性炎症が誘導されます この飽和脂肪酸による 代謝ストレス経路の活性化と 上述したTLR4を活性化する経路が 相互作用して 炎症性サイトカイン産生が増強され さらに慢性炎症が進行してしまうのです このように慢性炎症は *活性酸素 *終末糖酸化物・AGE *飽和脂肪酸 といった まさに生活習慣病の原因となる 体内因子により 起こされるのです 慢性炎症が さまざまな病気の原因となる道筋が 少し見えてきたでしょうか?
高橋医院